手を繋いで歩きながらカカシ先生は言う。
「俺ね、好きな人しか相手にしないんですよ。だっていつ果てるかわからない人生で、どうでもいい奴のために貴重な時間を割くのは勿体ないでしょう?」
カカシ先生はいつも本当のことしか言わない。
俺もそう思う。人間は好きな人を想うためだけに生きているのかもしれない。
本当は頭のどこかでわかっていた。カカシ先生がいつか任務で命を落とすかもしれないってこと。
だから医者に告知された時は、自分が先に死ねると知って喜んだんだ。
だってそうじゃないか。
父も母も俺を置いてさっさと行ってしまった。俺をたった一人残して行ってしまったんだから。
もう置いていかれるのは嫌だった。
だから先に死んでしまえば置いていかれることはないと思ったんだ。
でも。
「俺は、先に死んでしまってイルカ先生のいない天国へ行くくらいなら、魂となってあなたの側を漂う方がいいな」
「それじゃあ、俺が先に死んで天国で待っていなくてはいけませんね」
「イルカ先生が先に死んでしまうのは嫌です。俺が先の方が絶対いい」
「そんなことは神様だけがご存じですよ」
今は心が凪いでいる。こんな会話をしても穏やかな気持ちでいられる。
もう怖くはなくなっていた。
できればこの世に一人残されて悲しむのは、自分であったらいいとすら思った。目の前の人が悲しむことのないように。
そんな願いを込めて、今触れている手をぎゅっと握りしめると、ちゃんと握り返されたことが嬉しかった。



今日も明日もあさっても。
一緒に泣いて。
一緒に怒って。
一緒に笑って。
今日も明日もあさっても。
命ある限り。いや、命が尽きても共にあると信じたい。
今日も明日もあさっても。
この人をどうしようもなく好きで愛しているのは変わらない。
今日も明日もあさっても。
貴方と一緒に。
いつまでもきっと。
やさしく生きて、そして愛して。



END
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2004.09.04


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