「どうしてよかった、なんて言えるんですか」
どうして?
「よかったと思いますよ、ギリギリ間に合って。あなたがまだ自分の目で見て、自分の耳で聞いて、自分で判断できる状態の時に出会えてよかった」
「カカシ先生……」
「だってそうでしょう?まだ死ぬまで時間はあるんだから。だから俺のこと好きになって」
好きだよ。もう今更言われるまでもなく好きなんだよ。
どうして死んでいく俺なんかにかまうんだ。
どうして死んでいく俺が好きだなんて言えるんだ。
たとえ俺のことが好きじゃなくても、親しい者が死ぬことで心を痛めることだってある。そんな些細な痛みさえ与えたくないと思うくらい好きなんだよ。
「ねえ、泣かないで。お願いだから」
自分が泣いていることすら気づかなかった。
「そんな悲しそうな顔、しないで。まるで俺が傷つけたみたいじゃあないですか。泣かないでよ」
少し困ったように笑う。
「駄目ですか?俺のことは泣くほど嫌い?」
どうしてそんなことを言うんだ。
そんなわけない。そんなことで泣いているんじゃない。
「だって嫌なんです。たとえ今付き合ったとして、俺が死んだときあなたが傷つかないという保証はあるんですか」
「どうして?俺は今あなたに好きって言ってもらえない方が傷つくよ。死ぬ死ぬってあなたは言うけど、そんなの俺だって何時任務で死ぬかわからないんだよ?」
衝撃を受けた。
それはそうだろう。だって里が誇る写輪眼のカカシだ。任務で死に至る可能性なんて山程ある。
今まで大丈夫だったからといって、これからもカカシ先生が死ぬことなどないというのは俺の勝手な思いこみに過ぎない。
そんなことも気づかなかったなんて。呆れるのを通り越して笑える。
それと同時に背筋が寒くなった。
この人が死んでしまったらどうしよう。
今まで自分が死ぬことしか考えていなかったけれど、もし先に死なれてしまったらどうしたらいいんだろう。
ものすごい恐怖だった。
俺にとっては些細な痛みどころの話じゃないのに。
「俺はあなたが死ぬって聞いても諦めることなんてできないくらい、イルカ先生が好きですよ」
「そんなの信じられません」
信じられるわけがない。
「じゃあイルカ先生は、俺が明日必ず死ぬ任務に就くと聞いたら、諦めるんですか」
「いいえ、いいえ!いやっ…嫌です」
意外な問いに、聞き分けのない子供のようにただ嫌だとしか言えず、ぼろぼろと涙が溢れた。
「ほらね」
そんな俺を見て、カカシ先生はまるで勝ち誇ったように笑った。
俺の完敗だった。


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