初めて会ったその時から好きだった。
好きな人に見つめられたり、笑顔を見せられたら、心臓が張り切って全身に血液を送り出してしまうのも仕方ないことだ。
誘われるのだって本当は嬉しい。受付所だろうがアカデミーの職員室だろうが、喜んで『はい』と返事をしたい。
けれどそんなことはできなかった。そうすることによってカカシ先生に変な期待をさせてはいけない。好意を持たれているのはわかっているけれど、それがどんな類の好意かはよくわからないし、ただの気まぐれかもしれない。その真剣な眼差しが、もしかしたら本気なのかもしれないと思うことはあるけれど。
しかし結局どっちにしても俺に応えることはできないのだ。
それでも目の前で誘われると嬉しくなり、一緒にいたい気持ちも相俟って、『行きます』などと言ってしまう。
このままでは良くないと思い、明日からはもう決して顔も見ない、口もきかないことにしようと心に固く誓った。
二人でよく行く居酒屋で、アルコールはなしでただひたすら食べるのみ。端から見ればおかしな光景だったろうが、それでも俺にとっては楽しいひとときだった。
「イルカ先生、少し痩せました?」
「そうですか?」
「ええ。ずっと見ている俺を舐めちゃいけませんよ。前から比べると痩せました。ちゃんと食べてますか?」
自分のことを見てくれているんだと思うと、すごく嬉しい。でも駄目だ。
「食べてます。大丈夫ですよ」
笑って誤魔化しても、まだ不審げな視線を送ってくる。
それでもカカシ先生は無理に聞こうとはしなかった。そういう礼儀正しいところも好きだ。そんなことを考えながら卓の上に乗っている皿を空にすることに専念した。
たいして時間もかからない食事が終わって店を出る。それから家まで送ってくれるのはいつも通りだ。
並んで歩いていると、ふとカカシ先生が足を止める。
つられて足を止めると、カカシ先生は口布をすっと降ろした。きっと大事な話があるんだ。
「イルカ先生、好きですよ。俺と付き合ってください」
ああ、やっぱり。
告白されてしまった。本当ならば何よりも嬉しい言葉だけど。
「すみません、それはできません」
落胆した表情のカカシ先生に心が痛む。けれど仕方がない。
「理由を教えてください」
まっすぐに見つめてくる瞳に、心臓は激しく動揺したかのように早鐘を打つ。
もうこの素顔を見られるのも今日で最後だと思うと泣きそうになる。最後だからきちんと自分のことを話すべきだとも思った。
一度だけ深呼吸して、思いきって口を開いた。
「俺はもうすぐ死ぬんです」
「え?」
「実は以前任務のときに頭部を強打したのが原因で、脳に腫瘍ができているんです。腫瘍はだんだん大きくなって脳を圧迫して、いずれは死に至ります。もうすでに腫瘍のせいで記憶障害も出てきているんです。教師はもうすぐ終わりです。迷惑はかけられませんから。でも、良かったと思っています。ナルトも卒業できたし、思い残すことはありません」
何を言われているのかよくわからない、といった表情のカカシ先生に、自分が言うべきことをすべて言った。
約束が嫌いなのは自分がいつ死ぬかわからないからだ。もちろん医者はもうあとどれくらいでと予測するけれど、それが必ずしも正確とは限らない。守らないまま死ぬのは嫌だった。
「だからカカシ先生とはお付き合いできないんです」
カカシ先生の反応をじっと待つ。
もうこれで俺のことを好きだなんて言うわけがない。死んでゆくとわかっている人間に好きなんて。
そのとき、黙り込んでいたカカシ先生が口を開いた。
「よかった。俺のことが嫌いな訳じゃなかったんだ」
「え?」
「いや、なんか微妙に避けられたりしてたから、もしかして嫌われてるのかな、と心配だったんですよ」
そう言って笑った。
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