【おむすびころりん】

けろぽんさまのお誕生日フライングお祝いSS
リク「アスマ先生の受難シリーズ」


下忍を担当する上忍師となってからは、以前所属していた暗部の仕事が回ってくることはなかった。もちろん上忍として個別の任務はあったのだけれども。
しかし、最近は里の中も煩雑で忙しく、元暗部に声がかかって部隊が編成される即席暗部も多いらしい。
それに否やはないけれど、カカシを隊長に俺アスマが副隊長、新人暗部部員で構成される今回の任務は、はっきりいって気が重かった。むしろ嫌な予感でいっぱいだと言っていい。
そんな不安を抱えながら任務地へと向かったのだった。


「よし、ここで待機だ。今夜はここで敵を待つ。全員夕飯を食ってよし」
隊長であるカカシはそう伝達した。
だが、全員という言葉に耳を疑った。
たとえ敵を待つにしても、見張りも立てずに全員飯を食っていたら忍びとしてイカンだろう。
「あの……隊長。夕飯よりも見張りの方が大事なのではありませんか」
誰かがそう抗議した。もっともな意見だ。俺も同意見だ。
しかし、カカシは聞き入れるつもりはないようだ。衝撃を受けたように大げさな動作付きで叫んだ。
「な、なにぃ! 明日になっても敵は攻めてこないかもしれないが、夜になれば確実に腹は減るんだぞ! 優先順位からいけば、夕飯の方が先だ」
そんなわけのわからないことを言う。それを聞いた隊員達は。
「……そういわれてみればそうだよな」
「うん。たしかにそうだ!」
納得するな。そんなめちゃくちゃな論理に騙されるな。
いや、新人ということもあって、なにやら『写輪眼のカカシ』の言うことは絶対と思っている節がある。そんな奴らに騙されるなと言う方が無理なのかもしれない。
しかし。こんな非常識な言葉を信じるとは、「裏の裏を読め」と常日頃言われる忍びとも思えない。もっと疑うことが必要だ。
ともかくこんな暗部は嫌だ。
飯のことしか考えないなんて、暗部じゃない。
そう呟きながらも、さっさと解散して各自食事に散っていった隊員達を今さら集めるほどの情熱は俺にはない。痛み出した胃がその気力を奪っていた。
呆然と立ち尽くしていると、横でガサガサと音を立てて何かを取り出している男がいた。もちろんカカシだ。
どうやら夕飯のようだ。初めは兵糧丸か何かかと思っていたが、どうもそうではないらしい。
「なんだ、そりゃあ」
カカシに聞いてみると、平然と応えた。
「イルカ先生の手作り弁当だ」
それを聞いて、ようやく気づいた。
「もしかして、お前が散々飯を食う食うと主張してたのは……」
「もちろん、これを食べるためだ!」
ふんぞり返るくらい胸を張るカカシを前に、猛烈な脱力感が襲ってくる。
ああなるほど。だからなのか。
今まで食べることになど興味関心を示さなかった男があれほど拘るのだから、おかしいと思うべきだった。
この男はイルカがすべてで、イルカ中心に物事が回っているのだ。
だがそのために見張りを手薄にしてしまい、いい大人がすることか。
なんでも自分一人が食べるのはみんなに悪い、などと変に律儀な面を発揮したらしいが、もっと他の所に気を回して欲しいと思う。
しくしくと痛んでいた胃は、次第にキリキリとした痛みが断続的に襲ってくるようになった気がする。
「これは戦場でも待機中でも簡単に食べられるよう工夫されたお弁当なんだ。しかもほら、見ろ。このおにぎりを!」
「ああ、おにぎりだな」
それ以上どう言えというのか。
「これはイルカ先生の愛情たっぷりなんだぞ。なんたってオカカおにぎりだからな」
「何が?」
「かーっ、鈍い熊だな。オカカといえばおカカ、おカカといえばカカシ。つまりカカシにぎりってわけだ。これは俺が食べるために握られたおにぎりなのだ」
カカシは右手の上に乗せて高々と掲げた。まるでピカーッと光り輝いていると言わんばかりに。
しかし、オカカがカカシって駄洒落か?
果たしてイルカにそんなつもりがあっておにぎりを作ったかどうかなど俺にはわからない。単に台所に鰹節しかなかったからかもしれないだろうに。
そんな疑問も恋する男の前には無駄に違いない。それでも何か言わずにはいられなかった。
「共食い?」
「はうっ」
衝撃を受けているカカシの姿を見て、一矢ぐらいは報いてやれたことで少しだけ溜飲を下げた。
それに満足を覚えながら、立ち上がった。おにぎりをじっと見つめていたカカシは、俺を見上げて聞いてくる。
「お前は食べないの?」
人の気も知らずに平然とそんなことを聞いてくる暗部隊長を、
「いや、俺はいい」
と適当に流しながら、一人見張り台へと向かった。


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