カカシ先生への告白はうまくいかなかった。好きだということすら信じてもらえなかった。
家への道をトボトボと歩いて帰り、自分の部屋でゆっくりと考える。
納得できないというのなら、納得できる理由があればいいわけだ。
いつまでも落ち込んでいても始まらないので、少しでも前向きに検討しようと思う。我ながらいい考えだ。
理由。カカシ先生を好きな理由。
懸命に脳みそを振り絞って考える。
笑った顔が好き。
……これはちょっと違う。笑った顔は好きだけど、怒っていても少し困った顔をしていたって好きだし、まだ見たことはないけどきっと泣いた顔だって嫌いじゃないと思う。いつも笑っていないと駄目だというわけじゃない。むしろいろんな表情を見られる方がいいかもしれない。
じゃあ顔の作り自体が好きなのかと言えば、そりゃあ整った顔ではあるけれど、それに拘るわけじゃなし。うん、べつに今の顔じゃなければ好きじゃないなんてことはないと思う。
銀色の髪は綺麗で見ていて楽しいし、柔らかそうで触ってみたいと思ったりもするけれど、べつに何色であろうと構わない。髪フェチでもないし。
それからそれから。カカシ先生は優しいけど、いつもそうであって欲しいと望んでいるわけでもない。任務があれば情に流されない判断力も必要とされるわけで、そういう面があるだろうこともわかっている。いつも優しい人間なんて気持ち悪い気もする。どこか無理があるはずだ。自分だけには優しくして欲しいとわがままを言うつもりもない。
もちろん、上忍だからとか写輪眼を持っているからという理由はあり得ない。それはなんというか、カカシ先生の本質に関わる問題じゃないはずだから。ただ単に所属などを表しているにすぎない。
そこまで考えて、頭を抱え込んでしまった。
好きな理由が見つからない。
好きという気持ちは確かなのに、改めて聞かれると言葉に表すのは難しい。はっきりと言うことができない。
どうしよう。一週間後には答えなければならないのに。
カカシ先生に納得してもらえるような理由を。できれば「それほどまでに俺のことを好きでいてくれたんですか」と感激して、つきあってくれそうな理由を。
いや、後者はちょっと虫がよすぎる希望ではあるけれど。
まだ日はあるのだから、それまでじっくりと考えなくては、と思ったのだった。
「最近オマエ、おかしいぞ。イルカ」
「え?」
もうすぐ就業時間という頃になって、ふいに職員室で同僚に話しかけられた。
「一人で机に向かって考え込んでたり、急に顔を赤くしたかと思えば青くなったり、なーんか集中力に欠けるし、それから……」
「もういいよ、そんなに並べ立てなくても……」
恥ずかしい。周りに気づかれるほど思いっきり挙動不審だったなんて。
あれからずっと考えて考え続けていたから、つい仕事にまで影響が出ていたんだ。それについての注意だろうか。もっとしっかりしなくては。
「なんか悩み事があるんだったら、相談に乗るぜ?」
同僚が俺のことを心配して声をかけてきたのだと気づいて、嬉しくなった。いい奴だ。
「ありがとう。でも一応答えは決まったから」
「そうか。じゃあ、なんだか知らんが頑張れよ」
深くは追求せずに、それでも応援してくれる。
「うん。ホントにありがとうな」
心から礼を言うと、少し照れたように『気にするな』と言い残して去っていった。
さあ、今日はカカシ先生との約束の日だ。
報告はもう受理されていると、さっきの休み時間に受付に確認済みだから、これからカカシ先生の家へ訪ねて行こう。そう思い、勢いをつけて立ち上がった。
アカデミーの正門の前まで来ると、立っている人影があり、銀色の髪がちらりと見える。
「あ、カカシ先生」
立っている人物はカカシ先生だった。これから会いに行こうと思っていたのに、思いがけず会えて驚いた。そして、わぁっと体中に血が駆けめぐるのを感じた。
ここ一週間、考えるのに忙しくて気が回らなかったけれど、ずっと顔を見られなくて自分は寂しかったのだと気づく。
心の中で苦笑しながらも、嬉しい気持ちが高まり駆け寄った。
「お帰りなさい」
「ただいま、イルカ先生」
カカシ先生はいつものようには笑っていなかった。そのことを少し不安に思う。
「あの……もしかして任務で疲れているんじゃないですか?」
「いいえ?」
あっさりと否定されて、ではやはりこの前の告白が原因なのだと思い、気分も沈んでくる。
そのとき、カカシ先生が口を開いた。
「答えを。この前の答えを聞きに来ました」
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2003.12.20 |