【好きの理由・前編】

『鍍金』の浅海凪さまへ。サイト相互リンク記念SS
リク「イルカ先生の片思い。恋するイルカ先生」


「はい、たしかに。お疲れさまでした」
提出された報告書を手に、笑顔が引きつっていないかと不安が募る。
なぜなら、今目の前にいるのはカカシ先生だから。俺が密かに想っているカカシ先生。
今日こそは告白しようと心に決めていた。そのため、この緊張のせいで報告書に手の汗が滲まないかというのも心配ごとの一つだ。
「イルカ先生、今晩空いてますか?飲みに行きません?」
「はい、喜んで! あ、……受付は7時までなんですが」
「じゃあ、控え室で時間潰してますよ」
「すみません」
「いいんですよ。それじゃあ、待ってますからね」
カカシ先生はそう言い残して去っていった。
とりあえず、会う約束は何もせずに取りつけられた。幸先がいい。
と思うことにして、あまり気の乗らない受付業務に集中することにした。


恋をしてしまった。
里でも指折りの、ビンゴブックに載るようなスゴイ上忍で、しかも男。それは叶いそうもない恋で。
初めは噂の写輪眼や元暗部の肩書に憧れていて、できればお近づきになりたいなぁなんて少し邪なことを考えたりもしていたけれど。
ナルトを通して話す機会が増え、思いがけず飲みに行ったりするようになると、そんな考えは消えていた。
意外とよく笑う人だと気づいたのはかなり初期の頃だった。
右眼しか見れなかった頃から、目を細めるとかすかな笑い皺ができて、なんだかいい人だなぁと思った。何度も飲みに行くようになり、口を覆っている黒い布も外されて顔の表情も露わになると、とにかく嬉しそうに笑う人だと改めて思った。
酔っぱらって「ねぇ?イルカ先生」とからんでくる姿は、他の同僚と変わらない。むしろ彼らと居るよりも楽しい。
なんだか肩の辺りが重いと思って見てみれば、くーくーと寝息を立てて寝ていたりする。
思わず頬をつついてみたりした。
『はたけカカシ』は遠い人ではなくて、笑ったり怒ったり泣いたりする人間だった。しかも手の触れることのできるすぐ側にいる。
ああ、なんかこの人のこと好きだなぁ。
暖かい体温を感じながら、ぼんやりとそんなことを思った。
友人として好きとかそんなのではなく。
今まであまりそういう意味で好きになった人は少なくて、人を好きになるっていいものだなと感じる。
その時の幸せな気分は今でも忘れていない。
ずっと一緒にいられたら……なんてことを夢見たりして。
それが始まり。
それからは、会うたびにドキドキしたり、相手のちょっとしたことに一喜一憂したり。他人からしたら馬鹿げているだろうことも楽しかった。
そんなことが続いたある日、はたと気づいた。
カカシ先生はどう思っているのだろう、と。
どう考えても、俺が想っていることも知らずに挨拶をしたり誘ってくれたりしているとしか思えない。
騙しているようで、だんだんと申し訳ない気がしてくる。
告白してなんとかなろうとかそんなことは考えてないけれど、伝えておいた方がいいんではないだろうかと思い始め。
今日は言おうと決心していた。


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