「そういえばアスマ。あんたカカシに指輪を買ってやったんだって?」
一瞬なんの話をされているのかわからなくて、ぼんやりと紅の話を聞く。
しかし脳みそがようやく理解した時には叫んでいた。
「そりゃ違うっ!」
「噂になってるわよ」
「誤解だ!」
何でそんな話になってるんだー!
俺の必死の否定も紅にあっさりと流され、肝心のカカシはイルカにまとわりつくのに夢中で聞いちゃいねぇ。
「だって、宝石店でカカシの指に指輪をはめてるのを見たって人が何人もいるそうじゃない」
「それは……」
あの時のを見られたのか。
「三角関係かって騒いでる連中もいるから気をつけた方がいいわよ」
くすりと笑う紅に、俺は乾いた笑いを返すぐらいしかできない。
「ははは……」
アホか!
そんなありえん話はどうでもいい。用無しになった俺の懐の中の指輪に比べれば。
くそっ。
「それじゃあ、始めましょうか」
やさぐれかけた時にイルカの声がかかる。
「アスマ、勝負!」
紅は焼酎がなみなみ注がれたジョッキを握りしめ、やる気満々だ。
その姿を見て気が遠くなりかけた。
この調子では、俺が明日二日酔いでうんうん唸っているのは確実だ。
なんでまた勝負したがるのか、といつも不思議に思っているのだが、それが他人には分からない紅なりのこだわりなのかもしれない。
思うままに生き、自分の力で立つ姿を見るのは嫌いじゃない。むしろその強さと潔さに惚れ惚れするくらいだ。
誕生日を祝いたいという気持ちはまだ充分に残っているから、ここはやはり本人の希望を叶える方向でいくべきだろうと決意する。……たとえ明日ぐるぐると世界が回りすぎて立ち上がれなかったとしても。
「誕生日おめでとう」
ぼそりと呟けば、紅は一瞬目を見開いた後、
「ありがとう」
と、嬉しそうに笑ったのだった。


END
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