そういえば、カカシの分もイルカが用意するという話だったな、と思い出した。
カカシなら予算もあまり気にせずイイものを買えたんじゃないかと少し思う。いや、イルカなら予算云々よりもきっと本人が望むものを用意したのだろうが。
それじゃあ、それを渡した後に俺のを出すかと気楽に考えていた。
「はい。アスマ先生と紅先生の飲み比べ勝負。時間無制限です!」
ぶーーっ。
ちょうど口に含んだ焼酎が、見事に霧状に舞い上がった。
「なんでだー!」
「紅先生の一番喜ぶことを用意してみました」
さらっとなにげに凄いことを言うな。
思わず振り返ると、紅が期待に瞳を輝かせている。
「すごいわ、イルカ先生。私、ずっと勝負してみたかったのよ。なのにいっつも断られて……夢が叶ったわ!」
「ちょっと待て!」
そんな話は聞いてない!
俺の叫び声を見透かしたかのように、イルカは言う。
「アスマ先生、この前勝負するって約束してくれましたよね?」
あれはイルカと飲むって約束じゃなかったのか。
にこっと笑う姿が悪魔のように見える。
「イルカ、お前……」
確信犯なのかとも思ったが、ただの主語忘れの天然という可能性もある。俺には判断がつかない。
「ちなみに飲み比べにかかったお酒の代金はカカシ先生持ち。今日はお祝いですからね。思う存分お店にある酒を飲み干してください」
「素敵……」
紅の目がイっちゃってる。
「イ、イルカ先生。そんなことしたら俺の財布が……!」
「大丈夫です。分割払いもできるって店長さんが言ってましたから」
「そ、そうなんですか……」
もはや反論できる状況ではなかった。
にこやかに進行されていくその内容は、カカシにとっても俺にとってもかなり厳しいものがある。
イルカと飲み比べと、紅と飲み比べではレベルが違う。紅といえばザルどころかワク。どれだけ流し込んでも大丈夫という化け物の域に達する。
なぜいつも勝負を断ってきたかって? そんなのと対決などしたくないからに決まってる!
急性アルコール中毒だって下手すれば死ぬのだ。そんな危険はごめんだ。
カカシからは酒代、俺からは勝負につきあうのが紅への贈り物なのか。呆然とする。
なぜ勝手にそう決まったのかはわからないが、それならば俺からは指輪を渡して勝負は無しにならないものだろうか。おそるおそる問うてみることにした。
「く、紅……お前の指輪…を…」
「は? 私の指輪って、何わけのわからないこと言ってるの。そんなの邪魔になるからつけるわけないでしょう?」
そうはっきり言われて衝撃を受けた。
よくよく考えてみれば、暗器ならともかくそういった装飾品の類を身につけていたのを見たことがない。紅がそういう女だってことはわかっていたはずじゃないか。それなのに俺は……。
慣れない宝石店なんぞに足を運び、一生懸命指輪を選んで買ってきた俺の無駄足かげんに涙しそうだ。
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