宝石店とやらに入ると、光がキラキラと反射して眩しいくらいだ。
店員がにこやかに、なおかつ素早く近寄ってくる。
「何かお探しでしょうか」
「あ〜指輪を……」
俺がそう言うと、店員の笑みがさらに増す。わかりやすく揉み手までしている。
「サイズはおいくつでしょうか」
サイズ? そんなものは知らん。なんで俺が知ってると思うんだ。
いやいや、普通はサイズを調べてからくるものなのか?
あまりのことに頭痛がしそうになる。
本人に確認するなんてそんな真似はできるわけがない。黙って差し出して驚かせるのがプレゼントというものだろう。
「カカシ……なんとかしてくれ」
切羽詰まって助けを求める。
「えっ、俺ぇ?」
カカシはすっとんきょうな声を出す。
「俺がサイズなんて知るわけないでしょーが」
それはたしかにそうなのだが。
やはりここは諦めるしかないか、と溜息をつく。
ところが。
「……でもよく考えたら指の太さぐらいならわかるかもね。忍者だし」
「本当か?」
なにが忍者だからなのかはわからないが、カカシの言葉に縋る思いでどうにかしてくれと頼み込む。
カカシはしかたないなぁ、髭の頼みだしねぇと恩着せがましく頷いた。
「紅の手はこれくらいだ!」
ぼわんと煙の中から出てきた手は、たしかの紅の手そのものだった。
が、しかし。手だけ変化……
あきらかにキモい。
たしかにその方法なら俺にもできたかもしれない。だが、なんか嫌だ。カカシに任せておいて正解だった。
「お測りいたします」
店員はさすがプロで、引き攣りながらも笑顔で応対している。
とりあえずなんとか事なきを得、指輪自体も店員の勧める人気の品とやらを買うことができた。



紅の誕生日当日。
一応購入した指輪はこっそりと後で渡そうと隠し持っていた。
すぐ渡しに行くべきか後で渡すべきか。
悩んでいると、
「実は俺、何も用意してないんだよね」
とカカシが言った。
「悩んでたら、イルカ先生がちゃんと考えてあるっていうからさぁ。俺は後でお金を出すだけでいいみたい」
えへへ、すごい気が利く人でしょう、とカカシがだらしなく笑み崩れる。
そんな自慢を聞いているうちにイルカがやってきて、飲みに行くお店を予約しておいたから行きましょうと言う。なるほど準備は万端らしい。
紅とカカシと四人で連れ立って入った店は、それなりに混んでいて賑やかで、かといって五月蠅すぎない良い感じの店だった。
「誕生日おめでとうございます!」
「おめでと〜」
「おめでとう」
乾杯する時に三人揃ってそう言うと、紅は少し照れくさそうだったが嬉しそうに笑った。
「ありがとう……」
紅は終始笑顔で、やはりいくつになっても誕生日を祝ってもらうというのは嬉しいなのだと今さらながらに思う。
いろいろ準備をしてくれたイルカにも感謝している。俺たちだけなら、きっと何もしないで終わっていただろうから。
「これ、俺から紅先生に……」
イルカからそっと差し出されたのはこの店の小鉢、名物の『たこわさ』だった。
今までの流れからいって、これが誕生日の贈り物だというのだろうか。
まさか。冗談にしても性質が悪い。
「まぁ、イルカ先生ったら!」
紅が口に手を当てて震えている。
そうだよな。いくらなんでも『たこわさ』が誕生日の贈り物なんて、怒るのも無理はない。
イルカに悪気はないにせよ、あまりにもあまりだ。
さすがの俺もどうフォローしようかと頭を悩ませていると、紅が叫んだ。
「ちょうど食べたいと思っていたところだったのよ。食べたいと思った瞬間に出してもらえるなんて、こんな贅沢はないわ」
……どうやら感動に打ち震えていたらしい。
考えることが理解できん。
だが、美味しそうにたこわさを頬ばる紅を見る限り、俺がどうこう言うことではなさそうだ。本人が喜んでいるのだから。
さすが人間関係にも気を遣うイルカだけあって、その人自身が何を望んでいるか事前調査はぬかりないらしい。
「本当に気が利くのね、イルカ先生。こんな人をお嫁に欲しいわ」
「駄目駄目っ。イルカ先生は俺の奥さんになるんだから!」
くノ一が嫁を貰うというのはかなり無理があるだろう。ただの冗談でしかない。
しかし、カカシは真剣に阻止するべく紅の側からイルカを引き離そうとしている。ははは馬鹿だな、こいつ。
イルカはイルカで、抱きしめられちょっと身体が傾いたまま、にこにこと紅に話しかけた。
「紅先生。実は贈り物はまだあるんです」
「あら、そうなの?」


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