もうすぐ里の大門というところだった。
任務で斬られた足の出血が止まらず、もう一歩も動けなくなった。足の痛みでというよりは出血多量で貧血に陥ったというのが正しい。
まずい状況だ。
血が足りないせいで意識が遠のきそうになっている。
誰か任務返りの仲間が通りかかって病院まで運んでくれないだろうか、と切実に願う。このままではここで死んでしまうことだってありうる。
憂えていた時、人の気配が間近でした。
運良く誰かが通りかかったに違いない。目も霞んできたので確かめようもないが。
「誰か……拾っ…て……」
残っている力を振り絞って声を出した。が、そのせいでなけなしの余力はなくなり、気を失ってしまった。
目を開いたら、そこはまったく知らない部屋の一角だった。
てっきり病院に運んでもらえたものと思っていた。真っ先に白い病室の天井が目に入るだろうとの予測は大幅に外れた。
どこだろう、ここは。
そして誰が運んでくれたんだろう。
まさか敵ではないと信じたい。
けれど、何も分からないままではすぐに起きあがることも躊躇われた。身体は動かさず、まずは目玉だけを動かしてみる。
殺風景で家具もなければ窓もない部屋。
俺が寝ているベッド以外大きなものは目に入らない。
他に何か今の状況を知る手立てがないものか。探ろうと顔を動かした瞬間、はっと気づくとすでにベッドの脇に人の気配があった。
油断していたつもりはない。さっきまで気配はまったく感じられなかった。
つまりそれだけ実力のある者だということだ。
身体が無意識に身構えるが、相手から敵意は感じられない。
「気が付きましたか、イルカ先生」
かけられた声には聞き覚えがあり、知り合いだったことに安堵する。
それから、これは誰の声だったろうと考えながら声の主に視線を向けた。
「……カカシ先生?」
顔を見て驚いた。
ナルトたちの上忍師、はたけカカシ。『写輪眼のカカシ』『木の葉一の業師』などと呼ばれ、元暗部でもある超エリート上忍だ。
アカデミー教師の中忍なんて話す機会もないはずが、元教え子がきっかけで、会えば挨拶を交わし子供たちの話をする程度には交流がある。
「カカシ先生が拾ってくれたんですか?」
「ええ。びっくりしましたよ、イルカ先生があんな道端に……なんて思ってもなかったから」
「す、すみません! 重かったでしょう!?」
まさかカカシ先生に発見され運ばれるとは夢にも思っていなかった。
お詫びとお礼をしなくては、と慌てて起き上がろうとしたが、足に鋭い痛みが走り途中で固まる。想像していた以上の痛みに思わず呻いた。
「ああ、駄目ですよ。急に動いたらまた血が止まらなくなる」
そっと肩を押されて、中途半端に起こしている上体をベッドに戻される。
「何か食べられそうですか。果物とかお粥とか」
「えっ、あの……」
運んでもらえたのは知り合いが道端に転がっているのを無視したら寝覚めが悪いぐらいの理由だろうに、どうして食べるものがどうとか言う話になるんだろう。
戸惑っているところに腹の虫がグーッと鳴った。
は、恥ずかしい。
顔がかーっと熱くなる。
「じゃあ、お粥温めて持ってきますね」
カカシ先生はにこっと笑うと、止める暇もなく部屋を出て行ってしまった。
てことは、ここはカカシ先生の家なんだろうか。
お粥って誰が作ったものなんだよ。まさかカカシ先生ってことはないよなぁ。
でもなんで病院じゃないんだろう。
まったく状況が掴めないまま、おろおろするばかりだった。
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2008.02.16 |