春になれば草木も芽吹く。外を歩けば草花が咲き乱れる季節だ。
そんな中、ちょうど通りかかった野原にはタンポポが群生していた。
真っ黄色だなぁとぼんやりと眺めていると、その中でも一際輝く黄金色が視界に入った。なんだろうと思ってよくよく見れば、それはナルトだった。
その金髪の子供は、俺が初めて上忍師として面倒を見ることになった下忍だ。
何をしているのか不思議に思い、さらに眺めていると、一心不乱にタンポポを摘んでいる。花などとは無縁だと思っていた子供が。
その意外な姿に驚いていて、そっと様子を窺う。
「イルカ先生〜こっちの方がたくさん生えてるってばよ!」
少し離れたところにいる人物に声をかけていた。
それでは、あれが『イルカ先生』か。
ラーメンを奢ってくれる優しいイルカ先生。耳にタコができるほどナルトに聞かされたのだから、忘れようがない。
少し長めの黒髪を頭のてっぺんで括っている姿が目に入った。
野原一面に咲くタンポポを嬉しそうに摘むイルカ先生。
一目惚れだった。
その笑顔に陥落してしまった。
その後の俺は、そりゃあもう頑張った。
怪しい人と疑われそうになりながら、受付では必ず彼の列に並び、ナルトを餌に夕飯に誘ってみたり。
食事はもちろん俺の奢り。と言っても、ナルトと一緒ではしょせん一楽のラーメンがせいぜいだったが。
しかし俺はけっこう満足していた。ラーメンならば週一の頻度で食べに行くので、好都合だったからだ。イルカ先生は奢りに対して悪いですからと申し訳なさそうにしていたが、これぐらいは微々たるものだ。
そんな努力の甲斐もあって、ただの顔見知りから脱し、気軽に話してもらえる友人の域にすら達していた。
初めは笑顔を見られるだけでもいいと思っていたものが、ちょっとだけでも話をしてみたい、もっと仲良くしてほしい、もっともっと。望みは留まることを知らず、際限がなかった。
結局勇気を出して告白することにした。もちろん玉砕覚悟で。
しかし、返ってきた答えは意外なものだった。
「俺もカカシ先生のことは好きです」
ビックリだ。
「でも……」
その、『でも』は曲者だった。いつ如何なる時も。
でも恋愛感情じゃありませんとか?
よくある話だ。
「でも、カカシ先生はきっと俺の私生活を知ったら好きじゃなくなると思います」
「は?」
「俺の家に一度でも来た人は、みんな『こんな人だとは思わなかった』って言いますから」
寂しそうに微笑むイルカ先生に、俺は思わず手を取ってしっかりと握りしめた。
「俺は絶対イルカ先生を嫌いになったりしません!たとえ何があろうとも。誓います!」
何を言ってるんだ。
そりゃあ一目惚れではあったけれど、そのあとずーっと見てきた性格や人柄だって好きなのだ。
「本当ですか?」
「本当ですとも!」
思いきり頷いた。
だいたい失礼な話じゃないか。一度くらい家に遊びに行ったくらいで嫌いになるなんて。……そんなに汚かったり散らかり放題なんだろうか。少し不安になった。
いやいや、別にそれくらいどうってことはない。任務の待機する場所によっては酷いところもあったりするから、そういうのには慣れている。屋根があるだけマシだ。
「それじゃあ、一度うちへ泊まりに来ませんか?」
「えっ、いいんですか!?」
「はい」
いきなりお泊まり?すごいラッキーじゃないか!
俺は幸先の良さに目が眩んで、その先にあるものにまったく気づいていなかった。
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