【親分の憂鬱・前編】

四拾万打リクテーマ『幼馴染同士のカカイル』+『イルカ先生の方が立場が上の話(上司と部下など)』


それは昔のこと。両親ともに忍びで留守がちな我が家に、たまに遊びに来る子供がいた。
名前をはたけカカシという。
「イルカちゃん、遊ぼう」
「カカシ! 今日は何して遊ぶ?」
あれがしたい、これがしたいとわがままを言っても、カカシはいつもにこにこと笑って叶えてくれた。
今思えばあれは俺の子守り任務だったに違いない。その頃カカシはもう忍びだったはずだから。おそらく歳の近い子供ならば寂しくないだろうという心配りで。
しかし当時はそんなこともわからず、俺は上機嫌でカカシと遊びまくった。
鬼ごっこにかくれんぼはもちろんのこと、虫を集めたり蜂の子を巣まで追いかけたり、果ては隠れ基地作りまで。両親が留守の時ばかりなのでやりたい放題だった。
それはそれは楽しかった。
知らない山に探索に出かけた時。
「イルカちゃん、危ないから降りてきて!」
カカシが止めるのも聞かず、調子に乗って登った木から転げ落ちた。
運悪く顔に枝が引っかかり、思いきり傷を作った。
血が止まらず、自分が悪いにもかかわらず痛みに泣き叫んだ。さすが子供、自己中心的。
泣きやまない俺に、カカシはおろおろと機嫌を取ろうとする。もちろん的確な応急処置は終わっていた。
「イルカちゃん、ごめんねごめんね。俺なんでもするから。だから許して、泣かないで」
許しても何も、カカシは悪くない。
悪くないのだが、任務に失敗したという責任感がそう言わせたのだろう。しかし子供の俺にそんなことは分からない。そこよりも聞き逃せない言葉があった。
「なんでも?」
「うん」
「ホントになんでも?」
「もちろん」
「じゃあ今日からカカシは僕の子分だ!」
弱い者が強い者に従うのは世の習い。親分がいればそれに群がる子分がつきもの。子供世界も案外世知辛いものなのだ。
しかし今まで自分より弱い子供に会ったことがなかった。近所に住む子供はすべて自分より年長の者ばかり。つまり歳が上だというだけで腕力がある上位の者には嫌でも従うしかなかった。
そんな自分が子分を持つのは夢だった。自分の言うことをわがままだってなんだって聞いて賛同し、ずっと後をついてくる存在。そんな子分が手に入る絶好のチャンス。逃すはずがない。
あまりの嬉しさに痛みなど吹っ飛んでいた。
子供は愚かだ。自分の言っている意味の重要さも分からずに。
分からないまま相手も頷く。
「わかった。今日からイルカちゃんの子分になるよ」
こうして、カカシは俺の子分になった。


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