元からその傾向はあったとはいえ、それからのカカシは優秀な子分だった。
任務がない時は必ずやってきて顔を見せる。遊ぶのはもちろんのこと、宿題を見てもらうこともあった。というか、ほとんどやってもらっていたというのはアカデミーの先生には内緒だ。
両親が亡くなってからは食事はすべてカカシが作り、掃除も洗濯も放っておけばカカシがやってくれる。つまり一緒に暮らすようになった。
「これ嫌い」
「イルカちゃん、野菜は食べないと駄目でしょ。大きくなれないよ」
「……じゃあブロッコリーなら食べる」
「はい、どうぞ。たくさんあるからね」
栄養上必要なもの以外嫌いな食材は二度と食卓に並ばないし、急に食べたくなったアイスだって夜中なのに買いに走ってくれる。入りたいと思った時にすぐお風呂に入れるのが普通だと思い込んでいて、友達にそう言ったら笑われたのがちょっとしたトラウマ。それ以外は快適生活だった。
そんな日々があたりまえに続くと思っていた。
しかし、大人になってみればカカシは『写輪眼のカカシ』『木の葉一の業師』などと呼ばれ、里が誇っちゃうようなエリート忍者。俺が子分などと言うのもおこがましい地位と名声を手に入れている。
俺はといえば、しがないアカデミー教師。しかもなりたての新米教師。十把一絡げの中忍に過ぎないのだ。
どう考えてもカカシを顎で使う立場ではない、決して。
他人が聞いたら何の冗談だと笑うだろう。
それなのに、カカシはいつも律儀に俺の言うことに従い、いろいろな世話を焼き、すべてを軽々とこなしていく。まるで平凡で駄目な親分に見せつけるように。
そりゃあなんでもしてもらえるのは嬉しいしありがたい。感謝こそすれ文句を言う筋合いではない。
しかし、ここまでしてもらう価値が自分にはないことが俺を憂鬱にさせる。
カカシはあの時の約束を守っている。馬鹿な子供が勝手にした怪我のせいで。
たしかに目立つ傷が残ったけれど、こんな鼻の傷ごときに責任を感じてあれこれ従う必要などない。女の子でもあるまいし。
カカシだって内心ではうんざりしていることだろう。
自由な時間もない生活。いいかげん解放してあげなければいけない。いつも優しいカカシでは自分から嫌だと言い出せるはずがない。
それなのに長年の習慣でつい頼ってしまっている自分が憎い。
カカシがいなければ食べるものはおろか部屋は散らかり放題埃まみれ、仕舞ってある下着の替えの場所さえ知らない始末。カカシが長期任務についた時に経験済みだ。
何一つ自分一人で出来ず、カカシに放り出されたら路頭に迷うんじゃないかと思う。すごく不安だ。
いや、このままではいかん!
なんとか子分から自立して立派な親分に、いや立派な大人にならなくては!
そう決意した。


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2007.09.29


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