まずは朝一人で起きられるようになること。これが立派な大人への第一歩だろう。
そう考えて気合いを入れて眠りについたはずなのに、目を覚ましたのはカカシに揺さぶられ朝食が出来たと言われた後のことだった。
失敗だ。
第一歩から失敗してどうする!
「おはよ……」
眠い目を擦りながら気落ちして食卓につく。
「おはよう、イルカちゃん」
カカシは俺のことを『イルカちゃん』と呼ぶ。
『ちゃん』なんて親分らしくないと最初は嫌がったが、だからといってどう呼ばれたいかと問われるとわからなかった。結局『ちゃん』づけのままで今まで過ごしてきてしまった。
でもいいんだ。カカシが『ちゃん』づけで呼ぶのは俺だけだから。
きっとカカシにとっては特別な呼び方なんだ、と思えば腹も立たない。
特別。それがとても嬉しくて、笑みが漏れた。
「朝からご機嫌だね、イルカちゃん」
指摘されて赤面する。
違う。特別だからと喜んでる場合じゃない。
独り立ちしてカカシを世話係から解放しなくてはならないのに!
「今日は職員会議があるから早く出なくちゃ。い、いってきます」
慌てて誤魔化し、家を飛び出す。
「いってらっしゃい〜」
カカシの声が遠くから聞こえた。
はぁ。
家が見えなくなってから溜息をつく。
たぶん自分はそういう意味でカカシのことが好きなのだと思う。
だって小さい頃から綺麗で何でもできる優しい完璧な人間がずっと側にいて、好きにならないわけないだろう。他に目がいくはずがない。
でもカカシにとっては世話をすべき子供のようなもの。
今までは一緒にいるのがあたりまえだと思っていたけれど、でもそれでは駄目だと教えてくれた人がいる。
「あいかわらずみたいですね」
「テンゾウさん……」
「名前で呼ばれるほど親しくなかったと記憶してますが」
「あっ、すみません。カカシが呼んでるのを聞いてたら癖になっちゃって……ヤマトさん、おはようございます」
ヤマトテンゾウという上忍はカカシの後輩で仕事仲間だ。よく話題にのぼるから呼び方が移ってしまった。でもだからといって中忍の俺が下の名前を呼んでいいということは決してない。
「カカシ先輩を迎えに来たんです。また洗濯に熱中してて遅刻されたら困りますから」
カカシはよく遅刻する。洗濯していたとか皿を洗っていたとか掃除していたとかが遅れた理由では、仲間も納得できないだろう。
それもこれも俺の面倒を見ているからだ、とこの前ヤマトさんにはっきりと言われた。
指摘されて初めて気づいた。自分はカカシのお荷物なんだと。
迷惑だから一人でやっていけるよう努力してください、と冷めた目で見つめられて泣きそうになった。
しかし、泣いても事実が変わるわけもなく、自分が変わらなくちゃと心に決めた今でははっきり教えてくれたことに感謝すらしている。
今朝はしょっぱなから失敗してしまって恥ずかしいが、これから頑張りますと心の中で呟く。
「それじゃあ俺はこれで! お仕事頑張ってください」
ぺこりとお辞儀をして走り出した。
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