仕事が終わってアカデミーの門をくぐる頃。
「イルカちゃん、迎えにきたよ」
「カカシ」
顔のほとんどを隠しているけれど、笑顔が伝わってくるカカシが立っていた。
「早く終わったから」
それじゃあ一緒に帰ろうと思った途端、ヤマトさんの姿が目に入る。
「カカシ先輩、飲みに行きませんか」
彼の背後には仕事仲間か友人かがたむろしている。女性も多く、カカシと飲みに行くのを期待しているのかひそひそと声を潜めながらこちらをちらちらと盗み見ている。
おそらくほとんどが上忍か特別上忍が集まる中、俺は単なる邪魔者なのだ。ヤマトさんの視線がそう物語っていた。
「行ってくれば?」
「え。でも……」
俺の言葉に戸惑うカカシ。
まさかこんなことを言い出すなんて思ってなかったのだろう。カカシにとって面倒を見なくちゃいけない俺が。
「俺は帰るから」
「じゃあ、俺も帰るよ」
周りはざわざわとさざめく。
ええー、はたけ上忍帰っちゃうんだ。ホントにー?
そんな声が嫌でも耳に入る。
「駄目。カカシは行ってきて」
不満げな視線を感じたが、今日は引けない。
カカシを解放してあげなくてはいけない。これはその前準備なのだ。
もしかしたら飲み会がきっかけで恋人だって出来るかもしれない。
たとえそうでなくとも、いろんな人に囲まれて楽しく笑う姿を見るのは、俺の独り立ちする決意を促す儀式でもある。
「命令だから。聞かなかったら絶交する」
納得しないカカシに手っ取り早く参加してもらうためにはこれしかない。命令するしかないという事実に自己嫌悪に陥りそうだったが、仕方がない。
カカシは俺の頑なな態度に諦めたのか、そっと溜息をつき頷いた。
「じゃあね」
強がって何でもないことのように歩き出した。
飲みに行く御一行様が遠ざかる気配を、息を詰めて感じ取ろうとする。行ってしまったのを確認して、最初の計画通り跡をつけることにした。


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2007.10.06


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