「よっし!これであの人の心をゲットだぜ」
「どれどれ」
やれやれ、やっと完成したのか。
溜め息をついてそれを読んでみた。


汝、オレ様の太陽なり。
汝を見るだけでオレ様の心は炸裂。
愛のダブルパンチを捧げよう。
たとえ生死の狭間を彷徨おうとも、汝への愛は永遠だ。
汝のためなら時空をもねじ曲げてみせよう。このオレ様の力で。


「……………………」
アンコのふざけた助言も助言だが、たぶんおそらく元から変な詩だったと推測される。
それを見て、少し哀れに思ったアスマが口を挟んだ。
「あー、カカシ。名前をハッキリと明かさない方が奥ゆかしくていいんじゃないか?」
「えー!それじゃ意味がないだろ!」
「いや、後で実はあれは俺でしたって言う方がインパクトがあっていいと思うけどな」
「なるほど」
こんなのをもらって喜ぶ人間なんていない、とはさすがに言い出せなかった。
せめて出した人間がわからないなら、後で何とでもなる。
無事付き合うようになれば、笑い話で済むだろう。
そういった配慮の元の助言だった。
とにもかくにも詩は完成された。
できれば思い直して捨ててくれないだろうかという希望は、どうやら無惨にも打ち砕かれたのだった。



その日アスマは、自分の10班の元担任であるイルカに声をかけた。
いつも笑顔が信条のような彼が、心配事があるかのように憂い顔だったからだ。
「元気がないな。なにかあったのか?」
「いえ、大丈夫です」
と、無理に笑って誤魔化そうとする。
「イルカ先生に元気がないと、子供達も心配するからな。相談に乗るぜ?」
子供たちのことまで持ち出されて心配されれば、どうしようかとかなり迷っているようだった。
まあまあ聞くだけでも、と説得すれば、思いきって相談しようと決意したようだ。
今は授業中であまり人のいない職員室で、お茶を出され。
イルカは周りを気にしながら話し始めた。
「最近変な手紙が毎日のように来るんです」
「へぇ、一体どんな」
「これです」

あなたのへのへのもへじより☆

ぶーーっ。
思わず噴いてしまったお茶は、かなりの距離を飛んでいった。おそらく新記録ぐらいには。
お茶が気管に入り込み、噎せて言葉にならないアスマの背中を、イルカは心配そうにさすった。
「何を言いたいのかよくわからないんです。俺の読解力が足りないんでしょうか」
「いや、そんなことはないと思うぞ」
「!そうですか。俺はまた、自分が知らない暗号かも、と悩んでいたんです」
「俺の知る限りじゃ、暗号じゃないな」
たぶん、おそらく。
奇怪な愛のポエムはある意味一種の暗号なのか?と悩まないわけではなかったが。
ともかくイルカにとっては想像もつかなかいことだったらしい。
「最初は悪戯かと思ったんですが、なんだか気味が悪くて…」
「ああ…そうだな」
「なにかの嫌がらせでしょうか。俺は誰かにそんなにも嫌われていたのかと思うと!」
「落ち着けイルカ。これはしばらく預かってもいいか」
「は、はい。もちろんです」
不安そうに見上げてくるイルカに、大丈夫とちゃんと声をかけたかどうか、自分の記憶に自信がなくなりながら、アスマはふらふらと職員室を出ていった。


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