ナルトの任務中の話などをしながら、楽しそうに歩いてくる二人が近づきつつある。
単純な計画だけに成功率は高いと思っていた。
だがしかし、やはりそう上手くはいかないもので、急にクナイが飛んできたことによって忍びの本能が活性化されたのか、敵は誤ってカカシの後頭部に向かってクナイを投げてしまった。
普段であれば難なく避けたであろうクナイも、寝不足でいまいち反応の鈍い状態では容易に突き刺さってしまった。
「がはっ」
「カ、カカシ先生っ!」
倒れ込むカカシを抱き込んで、道ばたに座り込む。
致命傷には至らないものの、クナイの刺さったところからは血が流れ出していた。
「すみません!ご、ごめんなさいっ」
イルカがボロボロと泣き出して、しきりにカカシに謝りだした。
なぜ?という疑問は、その場にいた全員のものだった。
「俺のせいでカカシ先生は……っ」
つまり自分が嫌がらせの対象だったのを、カカシがかばってくれたと信じているらしい。
敵の狙いはイルカじゃなくて、元からカカシなんだが。
まぁ、狙われたのはイルカに近づいたからだから、イルカのせいと言えなくもないが、はっきりいって自業自得である。
「こんなことをする人は許せません!」
おそらく親衛隊の頭の中には『許せません』にエコーがかかってぐるぐる回っていることだろう。イルカの涙と共に。大打撃間違いなし。
「イルカ先生…」
カカシが虫の息に近い状態で声を出した。
が、アスマはそれはちょっと怪しいと思っていた。確かにカカシは弱っていたが、あれぐらいでこれほどになるわけがない。さらにいえば、少しわざとらしい気がしないでもない。
「カカシ先生、大丈夫ですか!」
「あなたのためならこれぐらいなんでもありません。くっ」
少し起き上がろうとして痛みに呻き、イルカの膝に倒れ込むカカシを見て、疑惑は確信に変わった。
絶対わざとだ。芝居が臭すぎる。 周りにいた全員がそう思った。
だが、当のイルカはそんなことに気づかず、心配そうにしている。
「好きです、イルカ先生。あなたが悲しむのならこのまま死んだりなんてしません。俺と付き合ってください」
「えっ」
イルカはかぁーと頬を桃色に染めて、俯いた。
しばらくして
「お、俺も、好きです…」
と蚊の鳴くような声で答えが返ってきた。
がばりと起き上がったカカシは
「本当ですかっ!」
と肩を掴んで詰め寄ったのだった。
おいおい。お前は怪我人だろうが。
そんな非難のまなざしも、相手に届くことはなかった。
舞い上がっている男に何を言おうと無駄なことだ。たとえ後頭部からダラダラと血が流れ出していようとも。
さいわいイルカは全く気づいていなかった。 さすが里のアイドル。
普通では考えられない鈍さで、天然に磨きが掛かっているといえよう。
「じゃ、じゃ、じゃあ、これからは晴れて俺達、恋人同士ですね!」
「はい」
二人が手に手を取り合って頬を染め合っている姿を見て、親衛隊の恨み倍増である。
殺す。はたけカカシ、必ず殺す!
強い決意と殺意を胸に秘めようとしていた。
「俺はこれから、卑怯な輩に負けて怪我することもあるでしょうが」
カカシが、ちらりと親衛隊の方を見遣って言う。
「その時は俺が守ります!だって、カカシ先生が怪我したら悲しいですから」
その言葉は決定的だったと言えよう。もはやこれから先、カカシに怒りの制裁を加えて怪我をさせるわけにもいかない。
今は隠れていてわからないが、燃え尽きて真っ白な灰となった親衛隊の姿が目に見えるようだった。
「意外だ。イルカがカカシを好きになるなんてな」
「あれね。ナイチンゲール症候群じゃない?」
「ああ、母性本能をくすぐるってやつか?」
「一応作戦は成功したと見てもいいのか?」
「ちょっと卑怯技だがな」
「犯罪スレスレ?」
「というか犯罪そのものだったかもね」
「言えてる」
このことは生涯秘密にして、墓まで持って行かなくてはならない。そうしなければ自分達の命が危ないのだから。
とりあえず目の前でわんわん泣かれるよりはいいか。
そう結論づけて、腐れ縁連中はみな溜息をつくのだった。
END
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2002.11.30 |