「いいか、カカシ。さいわいイルカはこの手紙を書いたのがお前だと気づいていない。そのうえ、まだ廻りに言ってない。これは絶好のチャンスだ」
「う?」
泣くのに集中していたのを一瞬止めて、きょとんと見上げた。
「イルカを狙っている人間から守るという名目で近づくんだ。護衛として」
「それをきっかけに親しくなるのよ」
「なんて素晴らしいアイディアだ!ありがとう、友よ!」
今泣いていたカラスがもう笑っている。
やれやれ、しょうがない。これに勝てる人間なんてそういないだろう。
「俺、今から行ってくる!」
意気揚々とすっ飛んでいった。
「がんばれよー、カカシ」
ガイがその後ろ姿に声をかけたが、多分聞こえてはいないだろう。
「死ぬなよー」
アスマが言うと
「何よ、縁起でもない」
と紅が答えた。
「そうはいうけどなぁ。親衛隊はしつこいぞ」
「ああ、そうね」
「健闘を祈る!」
他ならぬ腐れ縁の友人を案じ、縁結びの神様にお参りに行くべきかどうか少しだけ悩んだのだった。


それから、迷惑をかけて申し訳ないからと遠慮するイルカを、何を言われてもまあまあと動じないカカシが説得し、毎日嘘の護衛をすることとなった。
出勤前や帰宅時はもちろん、暇さえあればカカシはイルカの元にやってきてまとわりついていた。
それが親衛隊を刺激しないわけがなかった。
近づこうとする度になにがしかの妨害が入るのはもちろんのこと、カカシが一人でいるときも嫌がらせの悪戯から本気の殺意まで品数は豊富だった。そこらを歩くだけで、打ち水の水をかけられるわ、鳥の糞が落ちてくるわ、どこからともなくクナイが飛んでくるわ。最初は偶然かと思っていたが、そうではないらしい。
たしかに任務中であればこれくらいは簡単に避けられるのだが、日常まで気を張っているのはなかなか疲れるものだった。ネチネチと精神的に打撃を与える作戦のようだ。
「この前なんて槍が降ってきたんだぜ。信じられるか?」
「なるほど」
「なるほどじゃねぇー! 夜は夜で、外がうるさいから気になって眠れないし」
どうやら交代で安眠妨害までしているようだ。目の下に隈ができているのは一目瞭然だった。
「うーん。やっぱり親衛隊は徹底してるな」
「無理しない方がいいわよ」
「いや!俺は諦めたりはしなーい!絶対にな」
そう宣言すると、寝不足でふらふらしながら控え室を出ていった。
残された上忍達は、当人抜きで話し合わなければならなかった。
「どうする?もうすでにヤバイ域だぞ」
「このままじゃ死ぬな!」
「……イルカ先生にバラしたらどうかしら?」
「バラす?」
「そういう卑怯な真似はイルカ先生の嫌うところでしょ?」
「なるほど。目の前でバラして、イルカに止めてもらうってことだな!」
「いいかもしれん」
目標さえ決まればさすが上忍、具体的な計画を練るのはもちろん、行動に移すのは早かった。
すぐさまカカシがイルカを送っていく夕方を狙ったのだった。
二人が通る帰り道を待ち伏せしようと気配を断っていると、すでに親衛隊はスタンバっていた。
恐るべし、イルカ親衛隊。
しかし、そこは名だたる上忍三人組、相手に気づかれずに位置を確保する。
カカシに攻撃しようとしたところを狙って攻撃してやれば、ふいをついて気配を表さざるを得ないだろう、というのが最終目的だった。
人間、攻撃するときはどうしても隙ができてしまう。それが狙いだった。


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