【ボディブローの恋3】

恋人希望宣言をした俺は、早速立ち去ったイルカ先生を追いかけて呼び止めた。
「イルカ先生。さっきの女性と付き合うんですか?」
「あっ、カカシ先生。聞いてたんですか」
驚いて振り向いた顔は、まだ少し上気していていた。
「あの人が好きなんですか?」
「好きも何も、あまり知らない人ですから」
イルカ先生は少し困ったように苦笑する。
まだあの女と付き合う気はないらしい。
そう判断して、幸先がいいと一人悦に入る。
「じゃあ俺のことはよく知ってますよね。嫌いですか?」
「カカシ先生のこと、嫌いなはずないじゃないですか」
にっこりと笑う顔を見て、よし!と拳を握りしめて気合いを入れた。
「じゃあ、俺と付き合ってください!」
「今日はどこですか?」
どうやら飲みに誘われたと思ったらしい。
たしかに今までのことを考えると仕方ないのかもしれない。
けれど、今の話の流れでそう判断するとはかなり鈍い。
でもその鈍いところもイルカ先生らしくていいなぁと思う。
「いや。別にどこかに飲みに行こうって言ってるわけじゃなくてですね」
「はい?」
「俺の恋人になってください」
「は?」
ああ、なんか驚いてる驚いてる。
その姿が微笑ましくて笑い出しそうになりながら、ここで笑っては巫山戯ていると思われるのは必死だったので、なんとか堪えた。
「俺、イルカ先生と一緒にいるのが今一番楽しいんです。でも、もしイルカ先生に恋人ができたら、俺を優先してもらえなくなるでしょ?だから、俺が恋人になればずっと一緒にいられると思って。といっても、それはただの周り向けの言い訳で、今までと何ら変わらないんですけど。一緒にいるためのただの名目です。恋人同士なら、誰にも文句を言われずに一緒にいられるから」
「はぁ」
「ほら。イルカ先生も知らない女の人より俺といた方が楽しいでしょー?ねぇ?」
イルカ先生といるのはすごく楽しい。
普段ならばなんでもないようなことが、一緒にいるだけで全然違ってくる。
きっと毎日が楽しいだろう。
「まぁ、その気持ちもわからなくはないですが」
相手の反応もそう悪くはない。
本当に嫌だったら最初から嫌悪感丸出しのはずだ。これはいけるかもしれない、と思った。
イルカ先生は眉を寄せてしばらく考え込んでいた。
それからふと視線を上げて、こちらをじっと見つめる。
その黒い瞳を見つめながら、何を言われるかとドキドキしながら口が開くのを待った。
「『付き合う』って具体的にどんなことするんですか?」
なかなか鋭い質問だ。
自分でも具体的には全く考えてなかったことに気づき、焦りながら答えを探す。
「うーん、そうですねぇ。飲みに行ったりとか、休みの日に一緒に出かけたりとか?お互いの家に泊まったりとか、家でのんびり過ごしたりとか。あ!料理を作って一緒に食べるとか!」
「それはなんだか楽しそうですね」
表情が解れてきたのを見て、嬉しくなる。
自分の言ったことが実際できたら楽しいだろうなぁとも思う。
「そうでしょ!イルカ先生もやっぱそう思います?俺たち気が合いますねぇ」
まだ決めかねている様子のイルカ先生に、ここでもう一押し。
「俺達付き合いましょう!何もずっと永遠にって言ってるわけじゃないですよ。イルカ先生に本気で好きな人ができるまででいいですから!」
意気込んでそういうと、イルカ先生はようやくにこりと笑って頷いた。
「わかりました。それじゃあ『二人のどちらかに本気で好きな人ができるまで』という条件でなら…」
「ホントですか!」
「はい。今日からよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げられて、慌ててこっちも頭を下げた。
「こちらこそ、お願いします!」
こうして俺はイルカ先生と恋人同士になった。
これでいつも一緒にいられて、楽しい毎日を過ごせるのだと想像すると、思わず笑みが漏れた。
そうしたら、イルカ先生も微笑み返してくれて、嬉しかった。


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2003.02.22


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