「さあ!イルカ先生、なんでも言ってください!」
最初は悔しがっていたくせに、今ではどんなことを言われるか楽しみにしている様子がありありと窺えた。
声も弾んでいるのがわかる。
子供みたいで、しょうがない人だ。
「じゃあ、明日から一週間、食事は自分で作って食べてください」
「……え?」
「一応カレーはたくさん作っておきましたから、これは食べてもいいですよ」
「あの……」
「上忍たるもの、自炊もできないなんて恥ずかしいことです。これを機会に頑張ってください」
「イ、イルカ先生!お、俺にはもう飯は作れないって、そういうことですか!?そうなんですかっ!?」
わーわーと騒ぎ立てている。
だいたい今まで忙しくて外食ですませるばかりの生活だったのは仕方ないとして、もう少し自分で食べる努力をしてほしい。
自分がいるときはいい。食事を作る手間など一人も二人も同じだから。食卓に並べればすむことだ。
しかし。俺がいないときは困る。
任務でどうしても里を離れなくてはいけないからと、日持ちのする料理をタッパーに詰めて冷蔵庫に入れておいたのに。ちゃんと食べてくださいといっておいたのに。
疲れて帰ってきて「面倒だったので〜」ですまされたら、腐臭を放つ物体を前に殺意すら覚える。
目の前に出されたものしか食べないなんて、どこの王様だ。まったく。
明日からまた一週間も任務で、どうしようかと思っていたところにこの賭けが持ち出されたのは渡りに船だった。
よかった。
なにも一から十まで自分で作れとは言わないが、せめて温めるぐらいはできるようになってほしい。
そんな俺の願いは果たして通じるのか。
「うぇぇっく。す、捨てないでくださいー。なんでもしますから!」
どうもおかしな勘違いをして一人泣き叫ぶ上忍を前に、溜息をついた。
「なんでもできるんだったら、ちゃんと温めて食べてくださいよ」
「ううー。だってだって」
「明日から任務なんです。その間ちゃんと食べるのが賭けの勝者の命令です」
ぽかんと口を開けた姿は少し間抜けだ。
「聞いてます?」
「ひっく。イルカ先生ー。そうならそうと、最初に言ってくれればいいのにー。ひっく」
いつまでも止まらないしゃっくりに、脅しが過ぎたかもしれないと思った。
いやいや、ここで甘い顔を見せると元の木阿弥。
きちんと言っておかなくては。
「冷蔵庫と冷凍庫に入ってるものを温めるんですよ。わかりましたか?」
「はーい」
調子だけはいい返事を聞きながら、本当にわかっているんだろうかと思う。
でもまあ、頑張った努力の跡が見えるなら、帰ってきてから好きなものを作ってあげてもいい。
いったい何を作ってあげようかと、そのことに思いを馳せた。
END
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2003.04.19 |