「ええっ!どうしてですかっ」
「こんな豪勢なお弁当、毎日食べていられません」
「そんなぁ。俺頑張ったのにー」
「とにかく無理です」
「そんなこと言わないでー」
「無理なものは無理です」
「んもう!イルカ先生のイケズー!」
ジタバタする姿は、本当にこれがあの『写輪眼のカカシ』だろうかと思えるくらい。
ああ、困った。
「うるせぇぞ、そこのバカップル」
いつの間にか少し離れたところに立っていたアスマ先生が、不機嫌そうに言い放った。
悲しかった。
俺は人様に迷惑をかける存在として認識されているのだと。
思わず涙がじわじわと滲んできた。
「あー、悪かったイルカ。お前は悪くねぇよ。悪いのはカカシだけだ」
慰めてくれようとしているのか、頭をポンポンとされる。
子供じゃあるまいし恥ずかしいと思いながらも、少しだけ嬉しかった。
「こんの髭熊!俺のどこが悪いんだよ。っていうか、どさくさに紛れて俺のイルカ先生に触んなー!」
うわーんと泣きながらアスマ先生に抗議する姿。
そりゃあ俺だって、せっかく作ってもらった弁当にケチをつけたくはない。
一生懸命作ってくれているのもわかっている。できるなら美味しく頂きたいと思っている。
ただあまりにもお金がかかりすぎるというのが問題なのだ。
しかし、それで弁当を作るなと言うのは俺のわがままかもしれない。カカシ先生にとっては豪華弁当は『普通』の常識なんだから。
そこまで考えて、はっと気づいた。
そうだ。二者択一だ。
お金がかかる『普通弁当』か、内容がちょっと恥ずかしい『愛情弁当』か。
目の前にあるのはその二つだとしたら。
どちらかを選べと言われたら。
「わかりました、カカシ先生。これからもお弁当をお願いします」
「本当ですかっ」
「ええ。ですが、『普通のお弁当』より『愛夫弁当』の方がいいです」
そう言うと、カカシ先生の顔がぱぁっと輝いた。
「さくらでんぶでハート書いてもいいんですか?錦糸卵でイルカの姿を飾っちゃいますよ?」
「はい」
笑顔で返事を返す。
「じゃあじゃあ、タコさんウィンナーを『あ〜ん』って食べてくれますか!?」
「いいですよ、もちろん」
「うわぁ、やったー!」
喜ぶカカシ先生に釘を差すのは忘れない。
「カカシ先生。『愛夫弁当』っていうのはですね、いかにして安い値段で作るかが愛情の見せ所なんですよ?」
「そ、そうだったんですかー! これからは任せてください! 俺、がんばりますよー」
嬉しそうに胸を叩いて請け負うのを微笑ましく眺める。
明日のメニューはどうしようこうしよう、と早速悩んでいるようだ。
「いいのか?」
アスマ先生が聞いてくる。
「いいんです。もう、あんな豪華お弁当にお金を費やすぐらいなら、さくらでんぶのハートぐらいなんですか。文字?結構じゃないですか、なんたって海苔ですからね!安くて栄養たっぷりです。『あ〜ん』したからどうだっていうんですか?別に平気ですよ。なんたって無料ですからね!」
「何かを吹っ切って、大事なもんをドブに捨てちまったみたいだな」
「そうですか?大丈夫ですよ、きっと」
だってあんなに喜んでるし。
仕方ないよ。
それ以上大事なものなんてきっとない。
「なんか間違ってる気もするが、まあいいか。お前らが幸せだって言うんならな」
アスマ先生はそう言って、溜め息交じりに煙草の煙を吐き出したのだった。
END
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2003.04.26 |