【先手必勝(B)後日談】

「イルカ先生、お弁当食べましょー!」
あのオセロに勝った日から毎日のように通ってくる上忍。
たしかに『普通のお弁当』ならば一緒に食べると約束した。
がしかし、これが普通とは思いもよらなかったからだ。そんなことはわかるはずがない。
知っていたら絶対断っていた。
三段もある重箱と水筒を抱えたカカシ先生は、そんな俺の気持ちもわからずに、にこにこと待っている。
「じゃあ、今日は天気がいいので外で…」
「いいですね!」
せめて人目のつかないところで食べたいと望むのはいけないことなのか。
嬉しそうに外へと向かおうとする姿に溜め息が漏れた。


「さ。今日も頑張って作ってきましたよ」
確かに頑張ったのだろう。なんといってもお重が三段だし。
そして内容も豪勢すぎた。
毎日毎日こんなお弁当。
伊勢エビに、トロのあぶり、ウニご飯、etc.etc.
あぶりはもちろん、その場で火遁を使用。
「近海物の大トロですよ。特別に取り寄せました」
お、大トロ?もったいない。
いったいどういう金銭感覚なんだ。
いくらかかっているか知ってしまったら、もう息の根が止まるかもしれないと思った。
項垂れて弁当を眺めていると、ふとキラキラと反射するものが目に付いた。
「これ何ですか」
「あ〜、金粉ですよ」
「ど、どうして金粉がかかってるんですか…」
「おめでたくていいじゃないですか!」
おめでたいって何が。ただのお弁当のはずなのに何故。
「あの…カカシ先生」
「はい?」
「どうしてこれが『普通のお弁当』なんですか?」
「えーっとね、『愛夫弁当』は愛情たっぷりだけど作るメニューが決まってるんです。ハートとかタコさんウィンナーとか定番メニューね!だけど『普通の弁当』は美味しいものなら何入れてもいいんですよー。知ってました?」
知りませんでした。というか、何か間違ってる。
『普通』は『普通』であって、豪華なお弁当じゃない。
美味しいのは大切かもしれないが、なにも出汁をとる昆布まで高価なものを取り寄せなくたっていいじゃないか。
このままいけば、非常識な上忍のせいでエンゲル係数はうなぎ登りだ。
質素堅実を常としている自分にとって、すごいストレスとなって迫ってくる。
もう耐えられない。
俺が神経性胃炎で倒れる前になんとかしなくては。


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