「カカシ先生。もうお弁当は作らないでください。お昼ごはんは何か買って食べますから」
「ええっ!どうしてですかっ」
衝撃を受けている姿はわざとかと思えるぐらい騒々しい。
「何か嫌いなもの入れちゃいました?言ってくれれば今度からちゃんと好きなものだけ入れますから!…それとも不味いってことですか?」
縋るような眼差しで聞いてくる。
ああ、駄目だ。これに騙されてはいけない。
きちんと断らなくては。
「カカシ先生の作ったお弁当はたしかに美味しいです。でも、ご飯にさくらでんぶでハートマークをあしらったり、海苔であんな文字を書くのは止めてください!どれだけ恥ずかしいと思っているんですか!」
よし、言えた。
「あんな文字?……ああ、『イルカぞっこんLOVE』?」
「そうです!」
あっさりと恥ずかしい言葉を口にするのが耐えられなくて、怒鳴ってしまう。
「ええ〜!俺の愛情たっぷり詰まってるんですよ〜?」
「と、とにかく止めてください!」
「え〜、俺の愛夫弁当が〜〜」
あまりにもしょげている姿に少し心が痛んだ。
正直言って、弁当はすごく美味しいし、手間もかかっているのはわかっているから、すごく嬉しい。
けれどあれはどうにも恥ずかしくていけない。
せっかく作ってくれるのだから、と今までは言えなかった。
賭けに勝ったという免罪符があるとはいえ、申し訳ないという気持ちがあるのも確かだ。
「それに、弁当箱の蓋を開けた瞬間のイルカ先生の顔と、その後ものすごいスピードでご飯をかき混ぜる姿を見るのが、俺の毎日の楽しみなのに〜」
な、なんだって?
「覗きですか!」
「見届けていると言ってください」
自慢げに胸を張るカカシ先生。
そんな言い方を変えただけで、やってることはストーカーと同じだ。
「覗いてないで一緒に食べればいいじゃないですか」
溜息と共にそう言うと
「いいんですか!」
ぱぁっと顔を輝かせて喜ばれた。
「普通のお弁当を作ってくれるんだったらいいですよ。一緒に食べましょう」
「はい!わかりました。『普通』ですね!」
ふつーふつーと嬉しそうに呟いている。
それを見ながら、喜んでくれてよかったと心から思った。
オセロに勝ったおかげで、人に見せても恥ずかしくない美味しいお弁当が食べられる。
きっと一緒に食べるのは楽しいだろう。
思わず笑みが漏れると、カカシ先生も嬉しそうに笑っていた。
カカシ先生の『普通』がどんなものか思い知るのはまた別の話。
END
●後日談●
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2003.04.19 |