「イルカ先生ー!酷いですー!」
ちょうどアカデミーの勤務が終わる頃に任務が終了し、もちろん報告書はアスマに押しつけて解散してきたのだった。
「あ、カカシ先生。お疲れさまです」
振り向いてにっこりと笑われると、どうしてもそれ以上は抗議できないところが辛い。
「解いてくださいよー」
「はいはい」
「なんだってこんな…」
それでも、ぶつぶつと文句を言ってみる。
「遅刻しそうだから心配して起こしてるのに、あんまり気持ちよさげに寝ていたので。ちょっとした腹いせです」
「そんなー」
「だいたいカカシ先生はちょっと寝起き悪すぎですよ。普通気づきます」
「だって……」
たしかにもっともな話なんだが。
だってね。
イルカ先生といると、それだけで嬉しくてあんまり気を張るってことがなくて、簡単にひっかかってしまう。
上忍としては失格だろうが、日常生活でなら別に構うことはないはずなのだ。イルカ先生は本気で相手を傷つけようとしているわけじゃなし。
しかも、巧妙な手を使ってくるのだから。
そこまで考えて、はっとした。
「あ!あの黒板消し、イルカ先生の発案でしょ!」
「え?」
「ナルトにやられたけど、あんな巧妙なのをあいつが考えるとは思えないし」
「ああ、黒板消し……アレにひっかかったんですか」
にっと子供のように笑った。
昔のガキ大将を彷彿とさせる表情だった。そんなのさえ可愛いんだけど。
「あれ、巧くチャクラで隠して、教室の外からは見えないようになってるでしょう?」
「そうです!だから簡単にひっかかってしまって、どんなに悔しい思いをしたかー!」
あれは今思い出しても腹が立つ。
7班と初めて顔合わせする日。教室に入った途端、落ちてきた黒板消し。
チョークの粉が辺りに飛び散って、口布をしていなかったら咳きこんでいたところだ。
まさか落ちてくるとは思っていなかった。だって見えていなかったのだから。
ずっと疑問に思っていた、あれはやっぱり。
「ナルトに教えたけど、使ってるところは見たことなかったから。そうか、カカシ先生ひっかかったんだ」
それはそれは嬉しそうに笑っていた。
「ははは。なんかね、カカシ先生を見てると、元イタズラっ子の血が騒ぐっていうか」
だいたいひっかかりやすいし、と言う。
確かにそうかもしれない。
イルカ先生から見たら、簡単にひっかかる情けない男かもしれない。
でも、しかたないじゃないか。
だいたいイルカ先生は、気配をあまり感じさせないというか、小技を絶妙に使ってくるというか。
そういうのが抜群に巧いんだから。侮れない。
一緒にいることの幸せに目が眩んで注意力が散漫になっている俺が、敵うわけがない。
せめて何か一矢報いてやりたいと頭をフル回転させる。
「俺、イルカ先生のイタズラにわざとひっかかるのが楽しみなんです。だって、その時のイルカ先生の笑顔が見たいから」
そう言うと、カーッと頬を染め、俯いてしまった。
よし、これでいい。
こう言っておけば、俺がイタズラに付き合ってあげているんだと思われる。成功だ。
本当は笑顔が楽しみっていうのも、あながち全部嘘というわけではないし。
これで少しでもイタズラが減ってくれるといいんだが。そうしないと俺が保たない。
俺はいつもあなたに振り回されっぱなしだよ。
でもね。
本気でひっかかってるなんてことは、悔しいから教えてあげない。
END
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2003.05.10 |