「カカシ先生、起きてください」
「ん〜〜イルカ先生、もう少し…」
いつもの朝の日課だ。
早く起きないとイルカ先生のご機嫌が悪くなるのはわかっているけれど、心地よい眠りには抗いがたい。
「もう。遅刻しますよ?」
「あと10分〜〜」
眠りの淵から這い上がれないまま、枕と友達になっていると。
頭を触れてくる感触がある。
優しく髪を撫でていく手。
ああ、イルカ先生の手だ。華奢すぎず、ゴツすぎず、丁度いい大好きな手。
暖かくて、ついウトウトと身を任せる。
珍しくずっと触られているということに、疑問を抱く余裕もないくらい眠かった。
少し髪の毛が引っぱられたりするけど、それほど強くはないから気にならない。
強く引っぱって起こそうというわけでもないらしい。
こういう微睡んでいるのは至福の時。特にイルカ先生が側にいたら尚更。
もう少しこのまま寝ていたい。
「カカシ先生……」
ん?なんかさっきと声が違う?
声が妙に色っぽい気がする。
「早く起きてくれないと、俺…俺……」
いや、気がするんじゃなくて、絶対そうだ。
朝っぱらからこんな艶っぽいなんて、イルカ先生どうしたんだー!
「俺……一人で……てしまいますよ…?」
えっ、何を!?何をスルって!!
がばっ。
布団をはね除けて起きあがると、にっこりと笑う顔が目の前にあった。
「一人で『朝ご飯を食べ』てしまいますよ」
だ、騙された……
ショックのあまり、布団を握りしめてガックリと項垂れる。
そりゃそうか。朝からそんな美味い話があるわけないのはわかっていたはずなのに。
ついひっかかちゃうんだよねー、イルカ先生が相手だと。
「ほら。今日は8班と10班と合同任務でしょう?急いでください」
「は〜〜い」
間延びした返事をすると、今まさに部屋を出ていこうとしていたイルカ先生が振り返った。
「あ、すみませんけど、洗面所の蛇口が壊れてるので、顔を洗うのは台所でお願いします」
「は〜い」
もそもそと起き上がり、台所で顔を洗った。
髪の毛はどうしようかと思ったが、面倒だからどうでもいいかと放っておいた。寝癖がついていても気にしないのはいつものことだし。もたもたしていて遅れたら、イルカ先生にまた叱られてしまうから。
怒ると怖いしねー、あの人。
そんでもって、怒りが収まったあとに自分まで傷ついたような顔をするのが反則っぽい。
だから、あんまり怒らせたくないのだ。
食卓にすでに並んでいる朝食はいつもながら美味しかった。
「ごちそうさま」
手を合わせて感謝の意を表すと
「お粗末様でした」
と返事が返ってくる。
時計を見れば、まだ集合の時間にはあと少しある。走っていけば充分間に合う。
「さ。早く急いでください。遅刻したら許しませんよ」
急かされて慌てて玄関に向かう。
遅れてあいつらに不満を言われるのはどうでもいいが、イルカ先生に叱られるのは非常に困る。
「じゃあ、いってきます」
履き物が置いてある土間は、今イルカ先生が立っているところより一段低くなっていて、自分より背が高くなった恋人を見上げて別れの挨拶をする。
見送りに来たイルカ先生は何故かじっと俺を見つめ、至極満足げに頷いた。
「はい。いってらっしゃい」
送り出す言葉と共に、クスリと笑われた気がした。
が、視線を向けると、そんなことはカケラも感じられないすました顔だ。
なんだろうと疑問を抱きながら、帰ってきたら聞いてみようと思い、玄関を後にしたのだった。
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