俺の家に着いたのはいいが、鍵も差し込んでいないのにカカシが扉を開くのはどういうことだ。
家の中には複数の人の気配がする。
疑問に思ったが、殺気は感じられず、カカシも平然と入っていくので危険はないとは思うのだが。
「アスマったら、遅いわよー」
「もう始めてしまうところだったぞ!」
「あ、お帰りなさい、アスマ先生」
3人同時に声をかけられ、頭を抱えそうになった。
紅とガイとイルカ。
もうすでにテーブルの上には料理が所狭しと並べられていて、盃も準備万端だった。
「ほら。これ『月の寒梅』よ」
「やはり酒なら『火虎』だろう!」
「俺は火影様からいただいた『鳳凰舞』を…」
どうやら全員酒瓶持参らしい。持ち寄ってきたのか。
なるほど、カカシが言っていた通り一本だけではなかったわけだ。
「それはいいが……なんでお前らは許可もなく俺の家に勝手に上がり込んでるわけだ?」
「アスマ!細かいことは気にするなー!」
細かいことじゃなくて重要なことだろうが。
ガイの訳の分からない言い訳を聞きながらそう思った。
「なんで酒を飲む場所がここなわけだ?」
「やーねー、飲んだ後すぐに寝られるようにっていう私達の心遣いじゃなーい」
「ホント、ホント」
悪びれない連中の中で、ただ一人だけ申し訳なさそうに謝る人物がいた。
「すみません。まさか聞いてないとは思わなかったので」
「ああ、謝るこたぁねぇぞ、イルカ。お前はどうせあいつらに巻き込まれただけなんだから」
本当に。
巻き込まれたのはイルカだけじゃなく自分もだ。
カカシの奴は礼と言っておきながら、みんなで飲みたかっただけじゃないのか?
「アスマ先生、誕生日おめでとうございます」
生真面目なイルカに改めて言われると、気恥ずかしさが先に立って
「や、悪いな」
とぼそぼそと返すことしかできなかった。
それでも笑顔が曇ることはない。
「急だったのでこんなものしか用意できなくてすみません。先生ももっと早く言ってくださればよかったのに」
大の大人がもうすぐお誕生日だと触れ回ったりするものか。
そう言いたかったが、にこにこと笑うイルカを目の前に言い切る勇気はなかった。
「さ、座ってください。始めましょう」
いかにも主役の座のような席に案内され、ちょっと勘弁してほしいと思ったが、それを言うのも大人げない気がし。
そうこうするうちに酒宴は始まってしまった。
そうなればもう、誕生日の祝いというよりも、ただの宴会という感じで少しほっとした。
「あっ、ちょっと待てお前ら! これはイルカ先生の手料理なんだぞ。もっと味わって食え!」
「やーん。ホント美味しいわ、これ。イルカ先生、私のところへお嫁に来ない?」
「駄目、駄目ー!イルカ先生は俺のなんだから!」
「美味い!味付けが絶品だ!」
騒がしいくせに、料理は次々と減っていく。
一体どうやって喋っているのだろう。
素朴な疑問はきっと一生謎のままに決まっているが。
まあいいか。こういうのも悪くない。
酒も美味いし、料理も申し分がない。
気心の知れた奴らとこうやって飲むのもたまにはいい。
絶対奴らには言ってやらないが。
自然と口が綻ぶのを感じながら盃を傾けたのだった。


END
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2002.10.19


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