目を覚ますと白い天井が真っ先に目に入る。
病院だ。
ああ、まだ生きている。
そう思っていたときだった。
「カカシ先生。目が覚めましたか?」
ふいに声がかかり驚いた。
「痛みますか?」
「いえ」
ぼんやりと答える。
痛みはたしかに感じなかった。
「じゃあきっと薬が効いてるんですね。大変だったんですよ。出血多量で危なかったんですからね」
「そうですか」
「ええ。任務お疲れさまでした。無事とは言い難いですが、帰ってこられてよかった」
彼の微笑んだ顔が視界に入り、ようやく帰ってきたのだと実感する。
「別にあのまま死んでもよかったんです」
どうしてそんなことを口にしたのだろう。
ただあの時感じた幸せな気分をわかってもらいたかったのかもしれない。
そんなふうに死んでいく者もいると、彼の記憶の片隅に残りたかったのかもしれない。
「どうしてそんなことを言うんですか。生きたいという望みはないんですか。」
生きていたいとは望まないけれど、あなたの顔がもう見られなくなるのは嫌だと思う。
あなたと居られるならば、いつか神に裁かれて死に至るとしても、その死がもう少し緩やかに訪れたらいい。
そう伝えると彼は悲しそうに笑った。
「そうですね」
どうしてそんな悲しそうな顔をするのだろうか。
気になったのだが、猛烈に襲う睡魔には勝てず、瞼が落ちる。
「ゆっくり眠ってください。ずっと側にいますから」
頭を撫でられるのを心地よく感じながら、俺は暗闇に身をゆだねようとした。
その瞬間に耳に入った言葉。
「急いだりしません。ゆっくりでいいから。大丈夫」
それは意味がわからないにも関わらず、俺の心を暖かくしたのだった。
そして眠りにつく前に祈るのを忘れたりはしなかった。


もう少しだけこの人の側にいさせてください。
たくさんの命を奪ってきた俺だけど。
もう少しだけ。


その祈りは誰に捧げているのか、わかりはしなかったけれど。


END
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2001.12.01


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