少し声が震えているかもしれない。
「だってカカシ先生は輝く星だもの。だから大丈夫」
通じるだろうか。イルカ先生があの言葉を知らなかったらどうしよう。
少し不安に思いながらも、イルカ先生ならきっと伝わるとなぜか思った。教師だから知っているだろうとかそういうことではなく。
イルカ先生は私の言葉に目を見開き、そしてこの上もなく優しく微笑んだ。
「……そうだな。ありがとう、サクラ」
よかった、伝わって。
視力を失ったことは辛く悲しいことだ。
親友から譲り受けたという眼がなくなってしまったことも、酷く痛みを伴うことだろう。
でもカカシ先生の肺はまだ呼吸を止めていないし心臓も止まってはいない。生きて動いている。それだけでいい。
きっとカカシ先生は輝く星になれたんだと思う。
ううん、なれたのではなくそうであることに気づいたんだ。きっとイルカ先生のおかげで。
だからあんなに穏やかでいられるのだと分かった。
それをイルカ先生にも知って欲しかった。
「サクラに教えられるなんて、駄目だな俺は」
「そんなことないです!」
慌てて首を横に振ると、イルカ先生はまた笑った。
「日々成長してるんだな。元担任として鼻が高いよ」
頭をくしゃりと掻き乱され、なんだか胸がくすぐったかった。イルカ先生に笑顔が戻り、案外自分も役に立ったかもしれないと思ったから。
ほんの少しでも今までの恩返しができたなら嬉しい。
それからイルカ先生とは世間話や仲間の近況を話しているうちに私の家に着いてしまった。イルカ先生はいつものように笑って帰っていった。
やっぱり最初から送るつもりだったんだ。
優しいイルカ先生。
いつだって人のことを思いやる心を忘れない。自分が苦しいときでさえ。
夜空の中でもひときわ美しく輝いている星みたいな人だ。
そう思った。


私はその後しばらく目が回るくらい忙しくなり、カカシ先生の退院を見送ることができなかった。とても悔しくて残念なことだったけれど、任務に穴を開けるわけにいかず仕方がなかった。
そんな折り、ナルトが訪ねてきた。
「なぁなぁ、サクラちゃん。カカシ先生、アカデミーの教師になったって聞いた?」
「え。そうなの?」
あのカカシ先生がアカデミーの教師。
驚きだった。
「うん、ついこの前決まったって。……今度一緒にアカデミーまで見に行かない? 慣れない姿を笑ってやるんだってばよ」
ナルトは冗談めかして言うが、心配してるのはバレバレだった。
こういう時、意外と一番気遣いを見せるのがナルトだったりする。素直ではない分、他人には伝わりにくいけれど。
「そうだね……きっと笑えるね」
嬉しくなって頷いた。
まさか私が自分の冗談に乗っかってくるとは思ってなかったらしく、ナルトは驚いていた。
でも笑えるのは本当だ。
その姿を見れば、幸せが波紋のように広がって私も幸せになれるだろうから。嬉しくて心の底から笑えると思う。
きっと似合ってることだろう、イルカ先生と二人で教壇に立つカカシ先生は。


人はみな、いつだってただの輝く星。
誰もが幾千もの輝く星の一つ。
ただ生き抜くためだけに存在する命。
私も誇り高く輝くその一つでありたい。



END
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2008.04.19


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