「カカシ先生。ちょっと話があるんだけど…」
「ん?何だ、ナルト」
アスマといる時にナルトが声をかけてくるのは珍しい。
実はナルトは大人に対して警戒心が強く、火影やイルカやカカシ以外の大人にはあまり近づかないのだ。
「あのさ。イルカ先生に前あったこと確認するの、止めてくんないかな」
「ああ?」
ナルトの言うことは意外だった。
何故そんなことを言いだすのか解らなかった。
「ホントはこんなこと言いたくないんだけど……イルカ先生、カカシ先生のこと覚えてるわけじゃないんだ」
「なんだって?」
「毎日その日にあったことを日記に書いてて。カカシ先生の写真と履歴書も一緒において、毎朝それを暗記してから出勤してるんだってば」
暗記?
覚えてるわけじゃない?
「毎日毎日日記は増えていくから覚えるのが大変で、最近じゃあすっごく早起きしないと駄目なんだ。あれじゃあ体壊しちゃうよ。だから……」
「ナルトはイルカのことが心配なんだな。カカシだってそうだ。イルカが覚えてないからって責めたりしない。大丈夫だ」
あまりのことに呆然となっていたカカシを気遣ってか、アスマはそんなことを言った。
「そっか、そうだよな。ありがと、アスマ先生!これで俺も安心して寝られるってば」
面識はあるがしゃべったことのないアスマに優しい言葉をかけられて、ナルトは嬉しそうだった。
もうイルカの心配事はなくなった、と無邪気に喜んでいる。
ナルトの世界はあくまでイルカを中心に回っているのだ。
その点ではカカシと変わりはないのだが。
ナルトが去った後もカカシは一言もしゃべらなかった。
どうして。
どうして。
泣きそうだった。
「思うに、イルカは病気なんじゃないか?」
「……病気?」
「いや、病気っつーか、精神的なものなんじゃないか?」
「精神的…」
「特定の個人だけを忘れるなんて、そうとしか考えられんだろ。俺がイビキに頼んでやろうか」
「なんでそこでサディストが出てくるんだよ」
「馬鹿だな。拷問専門家って奴はな、どこまでやったら死ぬか、どうすれば必要な情報を引き出せるのか、常に知ってる人間なんだ。そこら辺の下手な藪医者より手際がいいし、いい精神科医だぜ」
「…………」
カカシはどうしようか迷った。
頼んでもいいものか。
だがイルカに忘れられるのは耐えられない。
このままいけばいずれ自分の胸が破裂するのは間違いなかった。
「頼む」
短い言葉だったが、それが切実な声のようにアスマには聞こえた。
「イルカも俺がうまいこと言って連れてきてやるから心配すんな。大丈夫さ」
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2002.03.02 |