「今イルカは何歳かな?」
「6さい」
仕草や言葉遣いまで子供に戻っている。
「イルカは『はたけカカシ』を知ってるか?」
「うん、しってる」
「初めて会ったのはどこだった?」
「ひがしの森」
「どうしてそんなところに?」
「みんなとかくれんぼをしているうちにまよっちゃったんだ」
「そこでカカシと会ったのか?」
「うん。ないてたんだ」
東の森で泣いていたのはいつだった?
どうして泣いていたんだ?
「どうして泣いて?」
「…………」
イルカは言おうか言うまいか迷っている、そんな感じだった。
だがイビキが更に言葉を促すと、ようやく悲しそうに口を開いた。
「なかまが里をうらぎったから『しゅくせい』したんだって」
はっとした。
そうだ。あれは確かに東の森だったのを思い出す。
そしてそこで誰かに会ったのも。


+++

「どうしたの?どこかいたいの?」
泣いているときに声をかけられて驚いた。
仮にも忍びが人の気配に気づかないなんて。しかも小さい子供だ。
カカシは自分の不甲斐なさに舌打ちしそうになった。
昼間でも薄暗いこの森にやってくる者などいない、と高をくくっていたのが悪かったのかもしれない。
「どこも痛くない。大丈夫だ」
「うそだ。どこかいたいんでしょ?いたいところはイルカがなでてあげる。そしたらいたくなくなるよ」
気遣わしげに声をかけてくる子供につい口がゆるむ。
もう少しで泣きそうな顔をしているのに、それでも人の心配をして、自分が泣くのは一所懸命我慢している姿。
痛いところはなでられないんだ。心だからね。
心の中でそう答えるが、口にしたのは別の言葉だった。
「怪我をしているわけじゃないから大丈夫だ」
「ホントに?お兄ちゃんのなまえは?『にんじゃ』なの?」
「そう。俺の名前はカカシ。はたけカカシだよ」
「じゃあ道にまよったの?」
「そうじゃないよ。イルカは?どうしてここにいるんだい」
「かくれんぼしてたらまよったの」
「そうか」
「あっ!」
「どうした?」
「血がたくさん…」
暗がりに目が慣れてきたため、俺の手が血で濡れているのが見えたのだろう。
少し離れている場所には死体が転がっていたが、そこまでは見えてはいないようだった。
「やっぱりケガしてるんだ! いたい?いたい?」
「違うよ。これは人を殺した血で、自分のじゃない」
「えっ!」
そう言ったきりみるみる目に涙が溜まっていく。
きっと怖いのだろう。
「仲間が里を裏切ったから、上からの命令で粛正した」
仲間の死を受け止められなくて、これから忍びとして生きていくことなど出来ない。
それでも辛いものはどうしようもない。
特別親しい存在だったわけでもないが、それでも共に任務をこなし、遂行した後には喜び合う。
そんな仲間だと思っていたのに。
自分の手で殺してしまったことよりも、裏切られたことの方が心に重くのしかかって離れない。
「イルカにできることはなんでもしてあげる。だからなかないで」
慰めの言葉は不思議に暖かく響いた。
「どうして?」
「よくわかんないけど…だって、ないてないほうがいいにきまってるもの」
小さい手が近づいてこようとするのを感じる。
血に濡れた手に触ろうとしている。
そう感じた瞬間、思わず口をついて出た言葉。
「やめろ!触るんじゃないっ」
怒鳴るとびくっと手を縮こまらせる。
じっと見つめてくる視線にいたたまれなくなる。
「里まで送ろう。ただし、触ったら駄目だ、汚れるから」
素直に頷く姿に少し安堵した。
森を抜けて人が行き交う里まで送り届け、後は任務報告に向かうために別れた。
別れ際に告げた言葉。
「いいか。朝になったら俺に会ったことは忘れるんだ。思い出したら駄目だ」


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