俺が家に着いてすぐ、イルカは帰ってきた。
「あの、カカシ先生?怒ってますか?」
おずおずと聞いてくる姿にちょっと可哀想なことをしたかな、と思う。
だが俺は少し怒っていた。
あんなくだらない男に触られて抵抗もできなくて、あの時俺が出ていかなかったらどうなっていたと思っているんだ。
本当は俺と結婚していると言えれば、あんな有象無象はよってこなくなるのだ。
それぐらいは自分のことが有名だという自覚はある。
「やっぱり結婚してると公表するのは嫌ですか」
そう聞いてみる。
「そりゃあイルカ先生が結婚したことを言いたくない、って気持ちもわかります。でもね。それじゃあ何のために結婚したんですか、俺達」
本当は公表しないことを責めたいわけじゃない。
ただの八つ当たりだ。
昼間の男があんまりにもイルカに馴れ馴れしく触るから、やきもちを妬いただけなんだ。
「カカシ先生……」
だがイルカはそうは受け取らなかった。
真剣に俺がそのことを責めているのだと勘違いしているらしい。かなり悩んでいるようだった。
ああ、もう悩む姿も可愛いっつーの!
もう許してあげようっかなー。
とイルカに聞こえたら憤慨しそうなことを考えていたその時。
「だって……だって恥ずかしいじゃないですか。結婚したって報告した後にカカシ先生に捨てられちゃったら、どんな顔してアカデミーに通えばいいんですか」
イルカが意味不明なことを口にした。
「はい!?」
「だから!離婚したら恥ずかしくて仕事に行けませんって」
なーに言ってんだ、この人は。
俺が捨てるわけないでしょーが。むしろ捨てられるのは俺の方の可能性が高いっていうのに。
そんなことで公表したくなかったっていうのか?
「馬鹿馬鹿しい」
「っっ!!カカシ先生には馬鹿馬鹿しいかもしれませんけど!」
俺の言葉に、頬を紅潮させて抗議してくる。
「俺がアナタを捨てるわけないでしょ。嫌いになんてならないってあれほど言ってるのに」
「嫌いにならなくても飽きるかもしれないじゃないですか」
それは俺のセリフだよ、まったく。
イルカは自分の魅力ってものが全然わかってない。
もうこんな可愛くてどうするよってぐらいなんだよ!飽きるなんてとんでもない。
「じゃあ、イルカ先生は俺に飽きるんですか」
「そんなこと絶対ありません!」
「どうして絶対なんて言い切れるんですか」
「そんなの愛してるからに決まってます!」
あー、もうそんな殺し文句を平気で言うんだから、この人は。
はっきりいって卑怯技だね。
今自分の口にしたことの大胆さに気づき、顔を赤らめて俯く。
その姿も可愛くて。
抱きしめたいと思う。
「俺も同じです」
「え?」
「俺もアナタを愛してるから、嫌いになったりも飽きたりもしませんよ」
「本当ですか?」
「もちろん。これに関して嘘はつきません。神にだって誓ったでしょ」
「でも……」
まだ半信半疑の妻に根気よく教えなくてはならない。
「もしも誓いをやぶったら、俺のこと殺していいよ」
これはホント。
もしもアナタを裏切るくらいなら死んだ方がいい。
「カカシ先生……」
見上げてくる濡れた黒い瞳。
うわー、ホント反則技だよ。
「俺も。誓いをやぶったら殺していいです」
「浮気したら駄目ですからねー?」
「それは俺が言うことです」
なんてことを言う。わかってないね。
もしイルカが浮気なんてしたら、相手は瞬殺決定、間違いなし。
でもイルカを殺したりなんてしない。
それくらいもうメロメロなんだから。少しはわかって欲しいなぁ。
いずれわかってもらうけどね。ねぇ?俺の可愛い奥さん。
毎日が楽しくて幸せな日々をもたらしてくれるのはイルカだけ。
愛しい人。
この人が、少なくとも今は俺のものだということは、奇跡のような幸運じゃあないか。
まるで夢見てるみたいな一日が過ぎていく。
その中で夢じゃない本物の貴方をずっと抱きしめていたい。
END
●おまけ●
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2002.01.19 |