次はいよいよ本番だ。
台所に立ち、拳を握りしめて気合いを入れる。
まずは玉ネギから。
皮を剥くのは知ってる。
ふっふっふっ。
料理をしたことはないが、最近イルカ先生が料理をする姿を眺めているから、これは間違いない。
玉ネギは皮を剥いて使う。
よし。出だしは好調だ。
次はなになに?
『乱切りした玉ネギを…』
みだれぎり、って何?
酢豚のパックを表に返し、「調理例」というやつを見てみる。
とりあえず、肉の大きさに対してコレぐらい?
ま、こんなもんでしょ。
それから?
『キツネ色に炒める』
キツネ色ー!?
キツネ色ってなんだ、そりゃあ!!
どの色がキツネ色なんだ。
どれくらいの火力で、どれくらいの時間炒めるのかハッキリ書けー、こんちくしょー!
ああっ。こんなことならイルカ先生の料理する技を写輪眼でコピーしておくんだったー!!
とりあえず、適当にフライパンに放り込んでおく。
多分火が通るまで時間がかかるから、今のうちにスープを作っておこう。
このスープの素を溶かして沸騰させればいいんだな。
箸で掻き回せば、なるほどうまく溶けていく。
これなら簡単だ。
鼻歌も出てくるくらいだ。
ん?
なんか焦げ臭い?
フライパンからは細い煙がたちのぼっていた。
な、なに。
もしかしてかき混ぜないといけなかったのか?
とにかく火を止めようと手を伸ばした瞬間。
がしゃーん。
「う…」
あせったばっかりに鍋をひっくり返してしまい、床はぐちゃぐちゃだった。
最悪だ。
もうイルカ先生が帰ってくる時間なのに。
泣きたい。
「ううっ。なにが玉ネギだ。キツネ色だ。ちくしょー」
とぼやいていたら、ひっくり返した拍子に炒め損ねた玉ネギが頬にくっついていた。
ツーンと匂いが鼻についたと思った瞬間に、眼からボロボロ涙がこぼれていた。
うわー、なんだコレ!
ぎぃえー、止まらん!
慌てふためいているうちに、玄関の扉が開く音が聞こえた。
ああっ!イルカ先生が帰って来ちゃったよ!
ど、どうしよう。
「どうしたんですかっ」
帰ってきてみれば、台所は散乱し、ボロボロ泣いている男がいるのだ。
そりゃあ驚くだろう。
「イルカ先生、ごめんなさーい。うぇっうぇっ」
もうどうにも涙が止まらなかった。


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