【M vs S】中編


「ひっどいじゃない? 雑煮は普通白味噌だろ? 丸餅を煮るだろ? なんでわかってくれないんだ!」
「なんでそこで俺のところに来るわけだよ」
そりゃ、誰かに同意してもらうために決まってるじゃないか。そうでなければわざわざ髭のところにくるか。
正月だからって行くところがないわけじゃない。そんなのはなんとでもなる。暗部で鍛えられてるからいざとなれば野宿だってお手のものだ。
が、そんなことではないんだ。だってあれは雑煮じゃない。
「別にどうでもいいじゃないか、味噌だろうが醤油だろうが丸かろうが四角かろうが」
アスマが面倒くさそうに言った。
なんてデリカシーのない人間なんだ。
「何言ってるんだ、この熊! 記念すべき新年の始まりを迎えて初めて食べるものだろ。大事に決まってるじゃないか!」
思わず叫ぶと、もう一人の人物が制した。
「いい加減にしておきなさいよ、カカシ」
そう。アスマの家を訪ねると、紅が居たのだった。
二人で重箱のおせちをつまみつつ、日本酒を飲んでいたらしい。それを俺が邪魔したと言って紅は機嫌が悪いのだ。
別にわざとじゃないんだから、寛大な気持ちで許してくれればいいのに。酒ばっかり飲んでるからカルシウムが足りてないんじゃなかろうか。
「なんだよ、紅。お前は料理できないんだから、黙ってろよ。そのおせちだって料亭で買ってきたお重のくせに」
本当のことだったが、図星を指されたせいで紅の機嫌はさらに悪くなった。
「……カカシ、言っておくわよ。今回はあんたが悪い、全面的に」
地を這うような紅の声に、俺は思わず一歩後ずさる。
「な、なんでだよ」
「あんたねぇ。イルカ先生は任務で諦めた私なんかと違って、おせちは手作りだったんでしょう?」
「え、うん」
紅が諦めた理由は任務で忙しいからじゃなくて、ただ単に料理の腕の問題だと思うけど。
が、それは口にしなかった。紅が何を言いたいのか気になったからだ。
「師走の忙しい時に材料買ってきて、おせち作って、年越し蕎麦も作ってくれたって?」
「う、うん」
「任務任務で大掃除も参加しなかったような木偶の坊が、雑煮に文句つけようなんて勘違いも甚だしいのよっ」
紅は立ち上がり、まっすぐ指差してきた。
「ううっ」
痛いところを突かれた。
そうなのだ。正直そのことについては悪いことをしたと思っている。言い過ぎたのも確かだ。
でもイルカ先生だって悪い。
それくらいのことで正月早々、恋人を追い出したんだぜ?
「それだけ怒ってるってことでしょ。愛想を尽かされて振られてしまえっ」
紅は、ふんっと鼻を鳴らして椅子に座った。
その言葉を聞いて頭が冷えた。
よく考えればその通りだった。
イルカ先生が家を追い出すほど怒ったのは事実で。もう顔を見るのも嫌になるくらい嫌われたかも。次に会ったときには別れ話になるかもしれない。
それはものすごい恐怖だった。
どうして俺は雑煮ごときで文句なんて言ったんだろう。そんなのはイルカ先生自身に比べればどうということはないつまらないことだったのに。
後悔に打ちひしがれている時、コンコンとアスマの家の玄関がノックされた。
「すみません。カカシ先生はお邪魔してませんか」
イルカ先生の声だ!


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2009.01.17


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