告白して受け入れられた。その事実をいまだに信じ切れていない自分が居る。
なんだか気恥ずかしくて会話も途切れがちだ。
でも黙っていても、イルカ先生と一緒であれば心地よい。そこがどこであろうと居心地の良い空間なのだ。
車窓の景色はどこまで行っても変わりのない山と田んぼしか見えないが、イルカ先生のどこか楽しそうな表情も変わらない。いつも通りだ。いつも通りの日常。
いや、もしかしていつも通りではないかもしれない。
「そうか。今日から恋人同士なんだ……」
思わず口から溢れ落ちる。
昨日とは違う今日。
本当だろうか。やっぱり夢だったということになれば、俺はもう立ち直れない。
「噂が本当になっちゃいましたね」
いたずらっぽく笑うイルカ先生にホッとしながら、大きく頷く。隣にイルカ先生が居るという安心感。すごく幸せだ。
「そういえば、記者会見とかするんですか?」
この前会った時に、うちの社長が『もう記者会見した方がすっきりするかね』と溜息混じりに言っていたのを気にしていたらしい。
これから向かう場所にはきっと記者たちがうろうろしていることだろう。
「無視していればいいですよ、あんなの」
どうせそのうち次の事件とやらが起こったらそっちに集中する。馬鹿馬鹿しく勝手に騒いだ後に、まるで波が引くように去っていくだろう。ほんの少しの辛抱だ。
それまで俺がずっと側に付いてイルカ先生を守る。だって俺の恋人なんだから。
頬が緩むのに気づいて、はっと気を引き締めようとする。
駄目だ。恋人、という言葉にニヤけてる場合じゃない。
「あの……俺、嘘をつくのは苦手なんです」
「ええ。そうですね」
そこがイルカ先生の良いところ。短い間しか一緒に暮らしていないが、俺にはよーく分かっている。
「だから、別に恋人だって宣言してもいいんじゃないかと思うんです」
いやいや、それは思い切りが良すぎるってもんだ。
イルカ先生、男前だけど!
「いやしかし!」
「どうせ子供たちにもバレてるんだから今さらそれを翻すのもどうかと思うんです」
キラキラと輝く瞳のままイルカ先生は言い募る。
どうやら子供たちがイルカ先生の中ではネックであったようで、その壁さえ越えれば後はどうでもいいらしい。
「え、でも。本当にいいんですか」
そりゃあ俺は嬉しい。本当は世界中に言って回りたいくらいなのだから、公然と言えるのは嬉しい。
きちんと宣言して知らしめる。その誘惑には勝てなかった。もちろんイルカ先生の笑顔にも。
車内からアスマに連絡を取り、記者会見をしたい諭旨を伝える。なんと偶然にもアスマは記者対策で田舎に来ていると言う。
ちょうどいいので社長の許可を取ってもらうことにした。
折り返し電話があって、小学校の体育館で記者会見と決まった。ある程度の人数が集まれる場所がそこしかなかったからだ。が、ちょうどいいと言えばいい。
新幹線に乗っているうちに準備は整った。さすがに二人とも緊張の面持ちで駅を降り立つ。
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