その日の夕飯どき、あらかじめ探しておいたものをナルトに手渡した。
「ナルト。ほら、お前にはこれをやるよ」
「何これ」
 茶色い毛皮のかたまりをひっくり返して横から見たりしている。
「これはウッキーくんだ」
「ウッキーくん? ただのぬいぐるみじゃん」
「ウッキーくんはだな、俺が昔それはもうお世話になったマジカルペットだ。ほら、見てみろ」
 首やしっぽを振ったり、腕をかけあがったり、エサを食べる仕草をしたり。実演してみせるとナルトの顔も輝いてきた。人間は単純なもので、これだけで結構喜んでくれるのだ。微妙に手品とは違うような気もするが、ちゃんとマジック用品として売っているから手品と断言してもいいだろう。
「飼育の手間もかからないし、それでいて女の子に大人気の優れものだ」
「ホントにぃ?」
 女の子に受けるという言葉がさらに心をくすぐったようだ。
「絶対受ける。確実。俺を信じなさい」
「ありがとう、カカシ先生!」
 ナルトは、やっぱりあげないと言われないうちにといわんばかりにひったくった。失礼な。いくら俺でも一度やると言ったものはちゃんと渡す。説教してやろうかと思ったが、ナルトはさっそくサクラに見せに行くために駆け出していった。
「カカシさん、あれは……」
「あれは俺が小さい頃四代目に貰ったやつでね。実は昔俺も手品用の動物を死なせたことがあって、一時期動物嫌いになったものだから」
「そうだったんですか」
 イルカさんは嬉しそうに頷いた。
 そういえば、あれは四代目の形見になるのかもしれないな、とふと思った。そうならば、ナルトに渡せてよかった。使ってくれるなら嬉しい。ちょっぴりセンチな気分になった。
 しかし、今は少しだけ置いておいて。それよりも前から考えてきた計画を実行することで頭がいっぱいになってきた。今なら雰囲気も優しくていい感じだ。
 よし、と一大決心をして声をかけた。
「あの……イルカさん!」
「はい」
「明日、手品のネタ市場があるんですって」
「ネタ市場?」
「手品の道具や仕掛けの演技権を売り買いするマジックマーケットで、大きいものになると世界中のマジシャンが集まってくるんですよ。よかったら、い、一緒に行きませんか?」
 いきなりデートに誘うのは難しいから、興味を引きそうなイベントに誘ってみる。一緒に歩き回るだけでもきっと楽しいだろう。少しずつ親しくなって、側にいるのがあたりまえになれたらいいと思う。
「本当ですか? 行ったことがないので、ぜひ!」
 予測通り子供のように瞳を輝かせ、二つ返事で頷いてくれた。
 よし!と、イルカさんにわからないよう拳を握りしめていると、
「俺も行きたいってばよ!」
と悪魔のような声が聞こえてきた。
 今この瞬間に耳が聞こえなくなって、ナルトの声は聞かなかったことにしたいと真剣に願う。しかし、そんな願いとは裏腹に、イルカさんとナルトは二人で盛り上がっていた。
「どんなすごい仕掛けがあるんかなぁ」
「俺も初めてだから楽しみだよ」
 もうナルトが一緒なのは決定事項らしい。
 きっと今まで出かけるときはいつも一緒だったのだろう。そんな風に暮らしてきたのだから、仕方がないと言えば仕方ないのだが。しかし、だとしたら、これからはナルトが学校へ行っていて居ないときを狙わないと、二人で出かけることもできない。
「それじゃあ、明日朝8時に居間に集合ー」
「了解だってばよ」
「はい」
 二人の返事を聞きながら、ナルトに向けられる感情の半分でもよいから、俺にも向けられるといいなぁとしみじみ思った。


●next●
●back●
2005.05.04初出
2010.02.20再録


●Menu●