料亭の前で先方の到着を待っていたが、時間になってもやってくる気配がない。
ゲンマは場所も時間もちゃんと連絡してあります、と自信を持って断言しているから大丈夫だとは思うが、こういう待っているだけというのは不安も募る。
約束の時間もかなり過ぎた頃、慌てる様子もなくゆったりと歩いてくる一団が見えた。
「今日はよろしく頼むよ」
遅刻してきて一言の謝罪もなし。
あ〜俺の嫌いなタイプだ。
相手は大会社の専務だが、社長の息子というだけで何の能力もないお坊ちゃま。お坊ちゃまと言っても結構な歳で、でっぷりした腹と禿げ上がりかけた頭が特徴だった。
その専務以外はほとんど太鼓持ちみたいなお付きの二人という感じで、接待のメインはやはりこの御曹司に間違いなかった。
部屋へと案内され、各々が席に着こうとしたら専務が急に仕切り出す。君はあっちに座りなさいとお付きの人間に指示し、君はこっちねとイルカさんを自分の隣に座らせてしまった。
あれ、なんで。
普通接客する側が下座というのがセオリーなのに、と首を傾げた。
「いや〜こんな可愛い子が秘書なんて知らなかったなぁ」
あっ、何イルカさんの手を握ってるんだ、このハゲ!
思わず身を乗り出したときにゲンマが俺の袖を引っ張り、向こうに聞こえないよう耳打ちしてきた。
「カカシさん、マズいっすよ」
「マズいって何が」
「あの専務、可愛い子とか美人に目がなくて。女でも男でも気にしない、良く言えばおおらかで悪く言えば節操なしの人なんですよ。セクハラ専務って評判なんです……」
なにぃ。
「この馬鹿っ! なんでそんな大事なことを先に言わないんだ…!」
大声で怒鳴りそうになったが、かろうじてひそひそ話のトーンに押さえた。
「だってカカシさん、打合せに来なかったじゃないですか。待ってたのに……」
う。
指摘されて言葉に詰まった。
イルカさんに早く会いたくてゲンマに話を聞きに行かなかったのは俺のミスだ。くそっ。
悔やんでも悔やみきれない。
と、言ってる場合ではなかった。
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2008.05.31 |