いろいろゴタゴタがあったが、ナルトはアカデミーを卒業できた。
カカシは嬉しく思っていた。
やっぱりなんだかんだ言ってもナルトは可愛い。
火影になるなんて夢を堂々と語るところもなかなか見所がある。
下忍試験に受かるといいのだが。
そう思いはじめると途端に心配になった。
今日は下忍になれるかどうかの大切な日。
しかも担当教官に事前に挨拶することが出来なかったのも、カカシの心配の種だった。
火影様に聞いてみるか。
三代目を昼飯に誘ってそれとなく話題を振った。
それが一度も合格者をだしたことがない上忍と聞いて、もう駄目だと思った。
はっきり言ってナルトが下忍になるのは絶望的だ。
ただでさえ九尾に対する風当たりが強いのに、まだあの実力ではとうてい受かるとも思えない。
どうやって慰めるか。
それしかカカシの頭にはなかった。
せめてサスケがなんとかフォローしてくれないかとチラリと考えもしたが、日頃の不仲から推測すればそれは無理だろうと諦めムードだった。
ところが。
ナルト達が帰ってくると、受かったという。
「ええっ?お前達、見栄を張って嘘をついてるんじゃないだろうな」
疑いのまなざしを向けると。
「ちゃんと受かったんだってば!」
「しっつれいしちゃうわ」
「フン。当然だ」
子供達は自信満々で返事をしてくる。
本当に下忍になったのだとわかると、カカシはにっこり笑って三人の頭を撫でた。
「よかったな、お前ら」
恥ずかしそうにしながらも嬉しそうに笑う子供達。
「よし。今日は俺のおごりだ」
そう言って四人でラーメンを食べに行く。
またラーメンか?と少し不服そうなサスケ。
ダイエットしないと太っちゃう、と言いながらも残そうとはしないサクラ。
やっぱラーメンだよな、と替え玉まで注文しようとするナルト。
「あのさ、あのさ。上忍ってすげーんだな。かっこいいや」
「そうね。すごい強かったもの」
主に喋るのはナルトかサクラ。
「『仲間を見捨てる奴はクズだ』って」
カカシは意外に思った。
上忍なんて他の忍びのことなど気にかけることなどしないと思っていたからだ。
上忍なんてものは、上に行けば行くほど個人主義になって、周りのことなど省みない輩が多い。
しかも火影様の情報によれば、暗部にいたというスペシャル上忍ではないか。
合格者を出したことがないという上忍『うみのイルカ』は、きっと傲慢で実力を鼻にかけた奴だろう。
そんな高慢ちきな男に子供達を預けるくらいなら、アカデミーに戻してくれた方がいいとすら思っていた。
だが、そんな風に言える人なら安心できる。
きっとこいつらのこともきちんと面倒を見てくれるだろう。
少しだけその上忍に会ってみたいと思えた。
「そんでもってさ、すげー可愛いんだってば」
可愛い?
「可愛いって、確か男の上忍じゃなかったか?」
「男だって可愛いという形容詞を使うこともある」
普段あまりしゃべらないサスケまでがそんなことを言いだしたのは驚きだ。
強くて可愛い?
そんなことってあるかなー。
カカシはそう思いながらズルズルとラーメンをすすった。


+++

「はじめまして。うみのイルカです」
「あー。ナルト達がお世話になってる…」
初めて会うその人は、とても見た目には上忍とは思えなかった。
顔の真ん中に一筋の傷が走っているとはいえ、穏やかな笑顔は優しい善い人としか見えなかったからだ。
暗部どころか忍びという印象すら薄い。
「実は俺、下忍を担当するのは初めてで、カカシ先生にいろいろ教えて貰いたいと思って」
「えっ。教えることなんて…上忍に対して失礼でしょう」
「そんなことありません。一緒に夕飯でも食べに行きませんか。お願いします、ね?」
カカシの方が少しだけ背が高いこともあって、イルカが上目遣いで見つめてくる。
首を傾げ、手を合わせられたりなんかしたら。
言っては悪いが、それはすごく愛らしい仕草でカカシはとても断れなかった。
もしこれがわざとだっていうなら、やっぱり上忍に違いない。
そう思ってこっそりとため息をつくのだった。


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2002.04.13


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