イルカは焼き魚を骨だけ残してきれいに食べていく。
きっと親の躾が余程よかったのだろう。
一方カカシはといえば、魚を食べるのは好きだが自分で骨をとるのは苦手、というものぐさな性格だった。
骨をとろうとすると身をぐちゃぐちゃに崩してしまい、そのうえ手はベトベトという結果に途方に暮れてしまう。
イルカの方を見れば、気持ちの良いくらい綺麗に骨をとっていく魔法の手が目の前にあった。
ひらひらとひらめく手は決してか細くはなく、かといってごつごつしている風でもない。
爪もどちらかといえば深爪の一歩手前ぐらいできっちりと切ってある。
触るとあったかそうだなぁ。
カカシはついつい目がいってしまって、じっと見つめてしまっていることにふと気づく。
「なにか?」
と尋ねられて慌ててしまう。
何か喋らないと変な人と思われるに違いない。
「あ、あのですね。今まで下忍を一人も合格にしたことがなかったのに、どうしてナルト達は受かったんでしょうか」
ああ、と納得がいった様子で頷くイルカ。
「あの子達は何が大切かわかっていたからです。
言葉に惑わされたりせずに、何を為すべきかを自分たちで判断して行動する。
忍びとして任務を遂行する際に必要なことです。
だからそれが可能なあの子達に下忍として活躍してほしいと思ったんです」
まっすぐに向けられる瞳は澄んでいて、カカシはドギマギした。
その奥には柔らかい光が宿っている。
それが少し躊躇っている風にふっと視線が外され、その瞼を伏せられてしまった。
ずっと見ていたいと思ったのに。
「実は他にも理由があるんです。でも、これ言ったら笑いませんか?」
いたずらっ子みたいに笑いながら、内緒話のように声をひそめる。
くるくると変わる表情に魅せられてしまう。
「絶対笑いません。誓います」
もっと話を聞いていたい。
どんなことを考えているのか知りたい。
カカシはそんな欲求が自分の中に生まれるのを感じた。
「ナルトの夢は火影になることだと聞きました」
「ええ」
「火影になったナルトが治める木の葉の里が見てみたくなったんです」
思ってもみなかった言葉を聞いて、カカシはしばし呆然とした。
「少しの時間ですが、俺なりにナルトを接したつもりです。
里の多くがあの子を偏見の冷たい眼で見ているにもかかわらず、それに負けたりしない。
まっすぐ前を見て立っていられる強い子だと思いました。
でも強いだけじゃなくて、周りを和ませる力も持っている。
きっと明るくて暖かい里になるんじゃないかな。
楽しみだと思いませんか?」
微笑みながらそんなことを言う。
「イルカ先生もやっぱりそう思います!?
俺もね、ちょっとそうじゃないかなーと思ってたんですよね!
あいつ、ああ見えても結構面倒見がいいし、何があってもへこたれないし。
意外とイイ線いってると思うんですよ!」
一気にまくし立てると、はっと気づいて口ごもる。
「あー、ちょっと親ばかっぽかったかなー」
「いいえ」
口では一応否定はするが、くすくすと漏れる笑いはいつまでも止まない。
ちぇ。失敗したなぁ。
でも嬉しかったのだ。
今までナルトのことを悪く言う人間は星の数ほどで。
誰もそんな風に言ってくれる人はいなかった。
ナルト自身を見ることなく、ただ九尾の器というだけで人格まで否定されてしまう。
そんな日常に負けないようにもがいているナルトを理解してくれる人は本当にごくわずかだった。
だからつい。
昨日会ったばかりのナルトをそんな風に認めてくれるなんて、いい人だ。
すごく素直で自然体で優しい魂を持っている。
カカシは驚きと感動の波が交互に訪れるのを心地よく思った。
今日ばかりはこんな人に巡り会えたことを神様に感謝してもいいと思っていた。


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2002.06.08


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