【さかしまの国3】


最初は何を話していいかわからず少々緊張気味だったカカシも、酔いが回ってくるにつれ、気さくに話すイルカと話が弾むようになった。
「あ。ナルトに聞きましたけど、下忍試験は本を読みながらだったって。何の本を読んでたんですか?」
「ああ。これです」
イルカが差し出したのは料理の本だった。
パラパラとめくると子供が好きそうなものばかり載っていて、意外な気がした。
ハンバーグだの、スパゲッティにグラタンだの。
「コレ…イルカ先生が食べるんですか」
「いえ。あの、せっかく下忍担当になるんだから、任務が上手くいったらご馳走してやろうかと思って…」
気恥ずかしいのか頬を赤らめながら話すイルカ。
「え。イルカ先生が作るってことですか?」
「はい。料理は結構好きなんです」
そう言って嬉しそうに笑った。
「でも、ほら。一人暮らしだと全然張り合いがなくって。だから今から楽しみなんです」
普通はそんなことしないだろう、とは口に出来なかった。
遠足の前の日に興奮して眠れない子供のように、本気で楽しみにしているのだとわかったから。
可愛い人だよな。
最初にただ資料を見ていただけの時の印象とはまったく違っていた。
暗部に所属する上忍なんて、任務を遂行する以外は何にも興味がなく非情なものだ、と。
それが目の前にいる人物とはとても思えなかった。
子供に食べさせる料理の献立に悩む姿。
眉をひそめて考え込んだり、頬を紅潮させて喜んだり。
そういえばナルトが『強くて可愛い』と言っていた。
『可愛い』のはもう見るからにわかるが、『強い』のは?
やっぱり上忍であるからには、きっと強いのだろうとは思うのだが。
それを今想像するのはなかなか難しかった。
「そんなことしたら、あいつら図に乗っちゃうなぁ、きっと」
「そうですか?みんな何が好きなんだろう」
「あー。ナルトはもちろんラーメンですよ。あいつ、ラーメンばっかり食ってるんだから。毎日食っても食っても飽きないってとこがまた呆れるでしょ?
サクラはですね。女の子だから一応ダイエットとか言ってますけど、結構何でも食いますね。まあ、特に甘いものは大好きなんですけどね。
サスケは、この前なんかたくさん作りすぎたカレーを三日間ずーっと食べ続けたって言ってたっけ。
うーん。意外と好き嫌い多いんだなぁ、サスケは。特に好きなものは…」
カカシはまだまだ言葉を続けようとして、イルカの肩が震えているのに気づく。
よく見てみると笑うのを堪えているのだ。
「す、すみません。なんか微笑ましくて」
イルカはなおも笑いながら弁解する。


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