呆然しているカカシに、イルカは心配そうに声をかけてきた。
「大丈夫ですか?飲み過ぎてしまったんじゃあ……無理に勧めすぎたかも」
どうやら酔っぱらったと勘違いしたらしく、もう帰りましょうと席を立ち、帰り支度をはじめた。
ああ、違うけど。
違うんだけど、今は自分でも混乱しているから、今日のところは帰った方がいいか。
そう結論をだして、しぶしぶ立ち上がった。
本当はもう少し話していたかったけど。
居酒屋を出てからも、イルカがどうしても送ると言いだし、もう少しと思っていたカカシはその言葉に従うことにした。
嬉しいと思う反面、少しみっともないと思った。
酔っぱらいが心配で送るつもりなんだから。
突然、イルカがカカシの進もうとする歩みを阻み、道ばたの樹にぐいと身体を押しつけた。
「え?」
「動かないでください」
後ろの背中には樹の感触、前の腕の中には抱きついてきたイルカの温もりがあって、カカシは混乱した。
ええ!? なんだ、この体勢は!
好きだと自覚して間もない人が、こんな息がかかるくらい間近にいるなんて。
心臓がバクバクと音を立てる。
身体が密着しているため、それはイルカの耳にも届いたのだろう、じっと見つめられた。 申し訳なさそうな表情だった。
「すみません。あれは俺を狙っているんです。だからカカシ先生はここで……」
そう言われてようやくカカシは理解した。
よくよく辺りを窺ってみれば、広がる暗闇の中にいくつかの気配があった。
感じられるのは殺気ばかり。
おそらく上忍が五人はいるだろう。他の里の忍びだ。
恥ずかしい。すごい勘違いだ。
忍びとして男として二重の恥。
カカシはあまりのことに、今の状況を忘れてしゃがみ込みそうになった。
幸いイルカは、敵襲に緊張していると思っているらしく、気づいてはいなかったが。
「うみのイルカだな」
「その命、頂戴する」
それは問いかけですらなく、事実を確認する必要もないと言わんばかりに影達は近づいてきた。
「できるものなら」
イルカは、凜とした声でそう答えた。
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