「報告書です。お願いします」
ふいに聞き慣れた声を聞いて、カカシは慌てて顔を上げた。
この声は……
予想通り、目の前にはイルカが立っていた。
柔らかな笑顔を向けられ、
「お預かりします」
と平静を装いながら、書類に目を通すフリに集中する。
どうしよう。まともに顔を見られないっ。
昨日の別れ間際のことが思い出され、イルカが何気なく言ったであろう言葉が頭の中を駆けめぐっていた。
いやいや、あれはちょっとしたお世辞みたいなもんじゃないか。落ち着け。
カカシは動揺しながらも、それでもこの報告書を検分している間はイルカ先生もそれを待っていてここにいるわけだ、と妙なことに頭を働かせていた。
それならばといつもより丁寧にチェックして、几帳面な字だと感心している時。
「受付の仕事も大変ですね」
「え?いや、ずっと座っているし、それほどでは……」
「でも重要な役目です。事務をする人がいなければ、任務も上手く割り振りされないわけだし」
カカシはイルカの言葉に驚いた。
普通前線で働く忍びから見れば、受付なんて馬鹿にされることが多い役割だ。たしかにそれをする人間がいないと、依頼と任務をする者の調整がきかないのだとしても。
面と向かって受付が大変だと言う者などいた試しはない。わかっていない人間も多いし、わかっていてもなかなか口にできない人間は五万といる。それなのに、イルカは頭でも理解し、心からそう考えているのだと思えた。
ああ、そうか。人のことを素直に誉める人なんだ、と納得した。
そう考えると、今まで昨日のことでわたわたと自意識過剰な行動を取っていた自分が恥ずかしくなった。
それを何とか誤魔化そうとカカシは口を開いた。
「そうだ。昨日の夕飯のお礼に、今日は奢りますよ。一緒に夕飯をどうですか?」
と誘った。
一瞬躊躇う素振りを見せたが、
「と言ってもラーメンなんですけどね。美味いところを知っているんですよ」
と言えば、少し安心したように笑顔になった。
「あ、『一楽』ですか?」
「えっ。どうして知ってるんですか!」
まさか上忍は人の心まで読めるのか!と仰天して、今までのことも全部わかっていたらどうしようと焦ったが、それは杞憂だった。
「ナルトから聞いてます、『すっごい美味い』って。一度行ってみたかったんです」
ああ、ビックリした。
と心臓をバクバク言わせながら、いやそれどころじゃないと思い直した。
「じゃあ、ぜひ一緒に!」
カカシが意気込んで誘うと、イルカは頷き、
「はい」
と笑顔と共に返事をした。
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