ナルトたちが受けた任務は、ちょっとした護衛だという話だった。Cランクとはいっても、Dランクに毛が生えた程度だと。
しかし、それは長引いているようだった。
橋の完成が遅れているらしいという話を、カカシは受付所で聞いた。
そうか。頑張ってるかな、あいつら。
イルカ先生は元気でやっているんだろうか。どうにも不安で心配だ。
そんなことを暇に任せてつらつらと考えていた。
今は受付にくる者もおらず、カカシ以外の同僚はたむろって何かをしゃべりつつ暇を潰しているようだった。世間話をしていた同僚の一人がカカシに声をかけてくる。
「そういえばお前、最近うみの上忍と仲いいよな」
「あー、それそれ!どういうことだよ」
『うみの上忍』の名前が出ただけで、わっと騒がしくなり、話を聞こうと群がってくる。
それだけイルカの知名度は高く、気になる話題ということだ。
「どういうって……ほら、一番心配なナルトたちの上忍師だから、いろいろとさ」
カカシは戸惑いながら、当たり障りのない答えを返す。
「ああ、なるほどね」
言い訳してはみたものの、あっさり納得されるとそれはそれでなんだか悔しい。どうせそれ以外の繋がりなんてないだろうと言われているようで。実際その通りではあるのだけれど。
「でも、最近見かけないよな」
「あ、そうか。うみの上忍は今、七班を引き連れて遠出の任務かぁ。でもあの人なら失敗なんて無縁のエリートだし、安心だよな」
と同僚が言った。
そんなことあるものか。
任務に慣れない子供たちを庇って怪我でもしたらどうするんだ。そういうことがあり得そうだから心配してるんじゃないか!
そう叫ぼうとして、カカシは思い留まった。
同僚たちにとっては、イルカはまるで雲の上にいる上忍でしかないからだ。カカシだって最初はそう思っていたし。
けれど、間近で接するうちに、何でもできそうな魔法の手を持っている割には精神的に不器用で、目が離せない人だと今は知っている。
自分に何ができるかなんてわからないけど、せめて側にいてあげたいと思ったのだった。
黙り込んでしまったカカシに、仲間たちは何かを感じたのか、
「もうすぐ無事に帰ってくるさ」
と慰めてくれた。
それに曖昧な笑みを浮かべて頷き、カカシはそうであることを祈った。
ついさっきまで夕暮れだったと思っていた風景が、もうすでに薄闇に包まれ始めた頃。カカシは仕事を終えて、自分の部屋に帰ってきた。
たいしたことはない一日だったが精神的に疲れたような気がして、とりあえず部屋にどかりと座り込み溜め息をついた。
ナルトたちはいつ帰ってくるんだろう。
頭の中を占めるのはそのことばかりで、他のことは手に着かない。
そうこうしていると、窓にコツンと何かがあたる音がした。
鳥がぶつかったにしては軽い音で、どうも小石があたったようだったので、カカシはもしかして任務の呼び出しかと思い慌てて立ち上がった。
窓を開けると、そこにはイルカの姿が。
ちょうど窓の前に立っている木の枝が、まるでしつらえたかのように部屋に向かって伸びていて、そこに座っている姿。暗くてはっきりとは見えないけれど、それはたしかにイルカだった。
「イルカ先生!?」
「こんばんは」
驚いて大きな声をあげたカカシとは反対に、イルカはそっと静かに声を出した。
「いつ帰ってきたんですか?」
「ついさっきです。今、受付に報告書を出してきたところで…」
カカシは、イルカがいつものように笑っていないことに気づいた。どんなときも柔らかな雰囲気を醸し出していた微笑みは、今はただの愛想笑いにしか見えなかった。
このまま帰してしまうわけにはいかないと思い、焦りながらも声をかける。
「こんなところじゃなんなので、どうぞ入ってください」
「でも……」
「こんなムサイところでよければ」
躊躇うイルカに更に誘いをかけると、しばらく考え込んでいたがようやく頷く。
「じゃあ、お邪魔します。今から玄関に回って……」
「いいですよ、窓から入れば。忍びならこれぐらいの距離、ちょろいもんです」
「でも、失礼じゃあ…」
「大丈夫。今日は特別に許可します」
カカシがふざけて役人めいた言葉を使うと、イルカもようやく少し微笑んでくれた。
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2003.12.06 |