「ナルト」
「イルカ先生!」
噂をすればなんとやら。突然と現れて驚かされる。
あまりにも驚いたので心臓がばくばくと音を立てた。
「おにぎり、いるか?」
「いるいる!」
ガサガサと音を立てる紙袋を、ナルトは嬉しそうに受け取った。
「おにぎり?」
「イルカ先生って、いつもご飯を炊きすぎちゃって、よくおにぎりにして配ってるのよ」
隣に立っていたサクラが説明してくれる。
「っていうのは建前で。親の居ない子限定なんだけどね」
それはアカデミーでは暗黙の了解らしく、それについてからかったりするのは厳禁なのだそうだ。
手料理は駄目でおにぎりならいいというその基準が俺なんかには曖昧でよくわからないが、それはきっと『イルカ先生』と子供にしかわからないことなのだろう。
結局ナルトみたいな子供の気持ちを優先させるなら、ラーメンとおにぎりが彼にできる精一杯なのだ。ささやかだけど当人にとっては大事な何か。それはどこか羨ましく感じられた。
「あ、カカシ先生もおにぎり如何ですか?」
「は?」
突然と声をかけられて、間抜けな声しか出ない。
もしかして俺も可哀想な子供の分類なんだろうか。
「本当に作りすぎちゃって」
はい、と手渡される時に触れた手は暖かくて。
その手で握られたというおにぎりを食べるのは、不思議な感じがした。


それからというもの、『イルカ先生』はよく視界に入ってきた。
いつも子供たちや同僚に囲まれて笑っている姿。受付で報告書を確認する真剣な瞳。
それは今までのように不快なものではなく、ふと気づくとじっと眺めている自分を発見する。
「イルカ先生〜、お腹空いたってばよ」
受付を終わった頃を見計らってか、ナルトがまとわりついている。
「じゃあ一楽でも行くか?」
「やったぁ、ラーメンラーメン!」
ナルトが喜んで駆け回りそうな勢いなのを宥め、いつものように手を繋いでラーメン屋へと向かう。
その姿を見ると、なぜかイライラした。
あれだけナルトにきちんとかまってやればいいと思っていたはずなのに。今はそれどころではなく。
あの暖かい手に引っ張られていく手が、俺の手だったらいい。
そう思ったのだ。


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2005.10.08


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