しかし、奴の言うことはことごとく神経を逆撫ですることばかりで参った。
図星ということもあるが、それにも増して棘がある。腹の立つことばかりだ。そのせいで言わなくていいことまで口をついて出る。
イルカ先生が中忍試験で、スリーマンセルの一人が怪我をしたと知った時。
それならそうと言ってくれればよかったのに、と思った。そうすればあんなことは言わなかった。傷つけた。
奴に馬鹿にされ腹を立てたのと、ナルトナルトとあまりにもナルトのことばかり言うものだから、つい嫌みの一つも言いたくなったんだ。ナルトの心配ばかりしないでくださいよ、とかもっと言い方はあったはずなのに。
イルカ先生の担当上官の話を知っていたのにわざと煽るような真似をする奴は、絶対悪意がある。悔しい。
「はぁ。オビト、俺どうしたらいいんだろうね」
慰霊碑に向かって呟いてみても、答えどころか励ましすら帰ってくるはずもなく。
今生きている俺自身がなんとかするしかないのだと実感させられる。それを再確認するだけでもここに来る意味があるはずだ。
自分の力で頑張ってみるよ、と心の中で語りかけ、決意を込めて勢いよく立ち上がった。
「あれ。イルカ先生は?」
家の中には奴しか居なかった。
「伝令係で五日間帰らないって」
式の残骸をひらひらとさせ教えてくれた内容は、非常に面白くない事実だった。
それじゃあここにいても仕方がない。踵を返して自宅へ戻ろうとした時に、後ろで呟く声が聞こえた。
「あーあ、俺のこと愛してくれるイルカ先生に会いたいなぁ」
なんだそりゃ。
惚気か、俺に対する嫌みか。
言い返してやろうと振り返り、なんとなく躊躇った。
本を片手にぼんやりと窓の外を見つめているだけで、特に俺に向かって言った風ではなかった。
イルカ先生に会いたいのは俺も同じだ。遠く離れた奴にとってはあたりまえの望みかもしれないと思い直した。未来で付き合っていたというのならなおさら。それが心からの呟きならば仕方がない。
しかし、それならなんだって大事なイルカ先生を置いて、こんなところまで奴はわざわざやってきたんだろう。
首を傾げたが考えたからといってわかるはずもなく、なんとなく後ろ髪を引かれつつ奴を一人置いて家へと戻ったのだった。
中忍試験の予選後。サスケは暗部の警護付きで入院、ナルトはそのままエビスに任せて修行させることになった。
あんなに大見得きって受けさせた試験だったが、こんな結果になってしまった。
いや、実際サスケのことは最初から狙われていたわけで、今回のことは試験を受ける受けないとは関係ないと言えばないのだが。ナルトのことだって、実はその後に自来也さまに引き継がれるのは密かに聞いていたから口出ししなかっただけで、本当は俺だって悔しい。
イルカ先生は呆れるだろうか。結局上忍師としての適性に欠けていると判断されたらどうしようかと思う。
それでも、ナルトもサスケもサクラだって試験を通して忍びとして成長していっているはずだ、きっと。
一応予選会場に何か仕掛けられていないか見回り、それから帰ろうとした時イルカ先生の姿が目に入った。
ずっと顔も見られなかったのがようやく会えて、嬉しくて気が緩んだのか、なぜだか俺よりも奴が好きなのはどうしてかなどといった話題になってしまった。
「ちゃんと言葉にしてもらわないと駄目なんです」
とイルカ先生は言った。
きっとこの先学んでいくべき一番大事なこと。
「カカシ先生こそ俺なんか好きになってガッカリするかもしれませんよ?」
そんなことはない、決して。
会ってから今まで、自分の意気地のなさにガッカリしたことはあっても、イルカ先生に関してガッカリしたことなんてない。まだほんの少しだけしか垣間見えない弱い部分だって、ますます好きになる要素でしかない。自分の全力で守ってあげたいと思うよ。
今はまだうまく伝えられないけれど。
これから努力するから、どうかもう少しだけ待っていて欲しい。そう願った。
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