「そういえば、任務はいつまでかかるんですか?」
家に泊まるっていったい何時まで?
それによって予定も変わってきたりする。長くなるならそれ相応の準備をしなくては。
そう思って聞いたのだった。
「さぁ、それはまだなんとも言えません」
「あっ、そ、そうですね」
馬鹿なことを聞いてしまった。任務なんだからわかっていたって言うはずがないじゃないか。所帯じみた自分の都合で聞いた質問のせいで、余計な詮索をする奴と思われたらどうしよう。
「いや、本当にまだわからないんです。こっちにはきたばかりで……とりあえず泊まるところを確保しておきたかったので。すみませんね、迷惑をかけて」
おろおろする俺に、カカシさんはまるで自分が悪かったかのように謝ってくれた。
気を遣わせて申し訳ないと思うと同時に少しホッとした。気を悪くはしていないみたいだ。
「それじゃあ、もっと別の居心地のいい家の方がいいんじゃないですか?」
「未来からきた俺のことは、知ってる人間が少なければ少ないほどいいんです」
だから必要最小限の人間しか知らない方がいいのだそうだ。
それはたしかにそうかもしれない。その上カカシ先生が里にいることが多い今、うかつに出歩くこともままならない。人前でうっかり本人と鉢合わせたりしたら大変だ。カカシ先生はともかく、他の上忍から侵入者として問答無用で攻撃されることだってあり得る。
さっきアスマ先生と紅先生に会った時は大丈夫だったけれど、本当はすごく危険なことだったのだと今さらながらに気づいた。
「イルカさんにだけは話しましたが、他には内緒ですよ」
「はい、わかりました」
信頼されているのはとても嬉しい。
「もちろん『俺』にも内緒です」
「え。そうなんですか?」
「ややこしくなりますしね。何も知らないで済むに越したことはありません」
「ああ、そうですね。わかりました。どっちにしてもカカシ先生と話す機会はあまりありませんから……」
カカシ先生とは世間話をするなんてことはない。だからうっかり口を滑らすということもない。
そう言うと、カカシさんは少し困ったような決まりが悪いような顔で笑った。それは、なんだかしょうがないなぁ、と思っているように見えた。自分でもどうしてそう見えたのかよくわからなかったけれど。
それにしても不思議だった。特に親しいわけでもない俺のところにカカシさんがやってきたことが。だって普通に考えたら、親しいアスマ先生やガイ先生のところでもよかったはずだ。
「どうして協力者に俺を選んだんですか?」
「ま、それは俺のわがままなんですけど。ここにいる間はイルカさんと一緒に過ごしたいなぁという。だって俺ねぇ、愛しいイルカ先生と長い間離れていると禁断症状が出てまともに生きていけないんですよ」
そう言ってカカシさんは苦しそうに胸を押さえた。
「ぷ。なんですか、それ」
また変な冗談だ。
「いやいや、ホントですよ?」
にこにこと笑う姿は冗談とも本気とも判断がつかなかった。
ともかく、こうしてカカシさんは俺の家をねぐらにすることとなった。
上忍のカカシさんを家に泊めるなんて最初は緊張したり心配したりしたけれど、実際始めてみればまったくそんな必要はなかった。むしろ楽しすぎるくらいの毎日だった。
カカシさんは日中はどこかへ出かけているのかもしれないが、俺が帰ってくる時にはすでに家でのんびり本を読んだりしている。
家の中では額あても口布もつけずに素顔でくつろいでいる姿にも、だんだんと慣れてきた。
「おかえりなさい」
読んでいた本から顔を上げて、優しい眼差しで迎えられる。それに『ただいま』と答えるのにも慣れてきている。
俺の作った粗末な食事を美味しい美味しいと食べてくれるし。
「もっと豪勢な食事を作ったらいいんでしょうけど……」
申し訳なく思ってそう言っても、大丈夫ですと首を横に振られた。
「俺、サンマとナスがあれば何も言うことありません。サンマ大好きですから」
もちろんイルカ先生が一番好きですけどね、などと笑いながら言う。そんないつもの冗談すら楽しかった。
家に帰れば待っている人がいる生活。
今まで両親が亡くなってから一人だったから、誰かと一緒に暮らすのはまるで夢みたいだった。
いつまでここに居られるんだろう。任務がすぐに終わらなければいいのに。
そんな不謹慎なことを考えたりもした。
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2004.11.06 |