カカシさんが待っていると思うと、家へ帰るのも楽しみだった。扉を開けて電気のついていない暗い部屋に帰ることもない。
仕事が終わったらすぐに片づけて帰ろうとする俺を見て、
「イルカ、恋人でもできたのか?」
と同僚が言い出しにくそうに聞いてきた。
「ちっ、違うよ!」
恋人だなんてとんでもない。
だって写輪眼のカカシなんだぞ。そう言いかけて口をつぐんだ。
危ない危ない。極秘任務だっていうのに、もしもばれたら大変だ。
「でも何だか毎日うきうきしてるように見えるぞ」
「そ、そうかな」
そんなに目に見えて浮かれていただろうか。子供じゃあるまいし、恥ずかしいなぁ。
恥ずかしさのあまり頬が熱くなった。
「でもそんなんじゃないんだ。本当だから」
そういうと、相手は不審そうに目を眇めた後、俺の手をぎゅっと握った。
「わかった。でも好きな人ができたら絶対俺に教えてくれ!約束だぞ」
「あ、ああ」
その気迫に負けて思わず頷いた。
もしかしてこいつも彼女がいないから、俺に恋人ができたら一人取り残されると思ってるのかな。
その気持ちがわからなくはなかったので、必ず教えるからと請け負うと、同僚は少しは安心したようだった。
家に帰ってカカシさんと食事をしているときに、いつものように今日あった出来事を話していた。
するとなんだか不機嫌になった、ような気がした。ほんの少しだけど。
カカシさんはきっとモテるから、恋人がいない人間の気持ちなんてわからないのかもしれない。だからといってそんな怒るようなことでもないのに。
そう考えていたら、カカシさんは持っている箸を置いたので、何か話が始まるのだと思って緊張しながら正座し直した。
「イルカさん」
「はい」
「そういうときは『恋人がいる』って言うものです」
「え?嘘つくんですか?」
「嘘じゃないでしょう。ちゃんと俺がいるんですから」
なんだ、またいつもの冗談かと思って笑った。でも。
「まだ信じませんか?俺はこんなに好きなのにねぇ」
そう言って微笑む姿にドキドキした。冗談じゃなくて本当にそう思っているように見えたから。
「信じる信じないはともかく、あんまりぼんやりしてちゃ駄目ですよ。『俺とつきあってる』って宣言してもいいから。どうせいずれはつきあうんですから嘘じゃありません」
などと言う。
ドキドキしているときにそんなことを言われて、身体中に血が駆けめぐっているみたいだ。
しっかりしろ、自分。
「えーっと、でも……将来つきあうとしてもそれは未来のことであって、カカシ先生は俺の事なんて何とも思ってないわけで。えーっとえーっと」
焦って自分でもよくわからない言い訳をしてみたり。
それにもしも万が一それが事実だったとして、宣言する意味がよくわからなかった。
「何とも思ってないわけはないんですけどね」
カカシさんはまた困ったように笑って、それからさらに眉を顰めた。
「……それよりも心配だなぁ。明日から俺も受付について行こうかな」
「え、え?」
俺がぼんやりして見えるから心配なんだろうか。これでもいい年をした大人なんだけど。一応中忍だし。
そう言おうとしたけれど、でも本当に案じているみたいに顔を覗き込まれたら、なんだか言い出すこともできなかった。
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2004.11.13 |