次の日、アカデミーの授業も終わり、一息つくともう受付の交代時間が迫っていた。
少し足早に廊下を歩いていると、向こう側からカカシ先生が歩いてくるのが見えた。
話しかける勇気がなくて、黙礼をして横を通り過ぎようとする瞬間に、相手はにこっと笑った。心臓が止まるくらい驚いたけど、よくよく見ればカカシ先生じゃなかった。
「カカシさん?」
「そうですよ」
よくわかりましたねぇ、と言われて、あたりまえだと思った。だってカカシ先生はあんな風に笑ったりしないから。すぐわかる。わからないはずがない。
それよりも、どうしてカカシさんがこんなところにいるんだろう。
昨日はついて行こうかなんて言ってはいたけれど、まさかあれはただの冗談だろうに。
「あの……」
「実はね、イルカさんにお願いがあって」
「なんでしょうか」
「今、里外へ出ている忍びがいつ帰ってくるのか知りたいんです。何かリストのような物はありますか?」
躊躇いがちに尋ねてくるのは、きっと聞くのが本意ではないからだ。おそらく任務に関わることだから。
それを敢えて俺に聞くのは、一人で探す時間と尋ねることで得られる答えを秤にかけて、後者を選んだのだ。
それでも、とにかく自分も役に立てることがあるとわかって嬉しかった。受付所の仕事に携わっているからそれぐらいなら簡単だ。信頼されているというのも嬉しいことの一つだった。
「それなら任務シフト表を見ればわかります。じゃあ、それを持ってきたらいいんですね?」
任せて欲しいと胸を叩いて請け負うと、首を横に振られた。
「いえ。普段どこに保管してあるか教えてもらえるだけでいいですから」
「でも」
「持ち出したのがばれたらイルカさんに迷惑がかかるでしょ。大丈夫、こっそり忍び込みますから。こう見えても隠密は得意ですよ?」
茶化したように話しているけど、それが本当なことはわかっていた。きっと俺が想像するよりもずっと上手に立ち回るのだろうことも。でも、なんだか自分が役立つことはないと言われている気がして寂しい。
「それじゃあ、資料室まで一緒に行きましょう。そうすれば忍び込まなくても簡単に入れます」
「でも……」
「大丈夫ですよ。俺だったら見つかっても資料を探しているフリをすれば怪しまれません」
「そうかもしれませんね。じゃあお願いします」
カカシさんは少し考えた後にそう言ってくれた。
頼られているみたいな気分になって嬉しくなる。たとえそれが勘違いだとしても。
人目をさりげなく気にしながら、二人で資料室へと向かった。
資料室はただ書類を保管するだけの部屋なので、人の出入りは少ない。だから好都合だった。資料を見る時間はたっぷりある。
「誰を調べたいんですか?」
名前を聞いて俺が探した方が早いと思って聞いたのだったが。
「名前は言えないので……」
誰が帰ってくるのを待っているのかを知られてはいけないのだろう。極秘任務なのだからあたりまえだ。
仕方ないので、カカシさんに一人で探してもらって、俺は部屋の入り口で見張りをすることにした。
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