【明日の夢を今日夢見る19】


次の日の夕方。一次試験に7班・8班・10班が合格したと同僚に聞いて驚いた。
まさか受かるとは思っていなかった。
でも突破できたと聞くと嬉しい。慌てて家へ帰って報告すると、カカシさんも喜んでくれた。
カカシ先生も帰ってきていて、ほらね、みたいな得意げな顔をしている。
「新人の下忍がみんな受かるなんて、アカデミーでも話題だったんですよ」
興奮して夕飯にもろくに手をつけないまま、俺はしゃべり続けていた。だって嬉しかったから。
「今度の試験官はイビキさんだって聞いていたから、単純なナルトなんかは絶対ひっかかって落とされると思ってたんです」
「ああ。イルカさんは試験官がイビキだって知ってたから反対してたんだ」
カカシさんが納得して頷いてくれた。
「あ、はい。実は準備委員会の同僚から事前に聞いていて……」
「そっか、そりゃ心配だったよね。何も知らないでのんきに推薦されたら、怒るのもあたりまえですねぇ」
含みのありげなカカシさんの言葉に反応して、カカシ先生の頬が引きつった。
「えっ、いや、そういうわけじゃあ!」
慌てて否定するが、カカシ先生はすでに聞いていなかった。不機嫌そうな顔。
「イルカ先生が心配性すぎるんじゃないですか?ナルトたちだって立派な下忍なんだから」
もう関係のない元担任が余計な心配をしすぎだ、と言われているようで、身体が竦んだ。どうしようもなく項垂れる。
「そ、そうですよね。でも俺、中忍試験のやり方はどうしても慣れなくて……つい」
今まで受かった喜びで忘れていたが、これからより過酷になっていく試験のことを考えると、気持ちも沈んでいく。中忍試験は危険が多すぎて、本当は嫌いなんだ。
「イルカさんは昔のことを思い出して心配なんでしょう?」
俺を見るカカシさんの眼は気遣わしげで、はっとした。
「あ。もしかしてカカシさんはご存知だったんですか?」
「聞いてますよ。最初の中忍試験を受けた時スリーマンセルの仲間が怪我をして、忍びを止めざるを得なかったって」
そう、最初の試験は散々だったのだ。
俺たちを担当していた上忍師は上忍として優秀だったせいか、未熟な人間の気持ちや力量をいまいち理解してくれない人で、できないのは努力が足りないからだという理由でいつも片づけられた。叱られることの多い日々だった。中忍試験もまだ早いからと断ろうとしたのを、上官のゴリ押しで無理矢理受ける羽目になってしまった。
そして、なんの心得も注意事項も与えられないまま挑んだ試験は、過酷で想像を絶するものだった。
それでもなんとか受かりたい一心と叱られる事への恐怖で頑張ったけれど、もう一人の仲間を庇った子は忍びとしては再起不能になり、結局班の誰一人として受からなかった。
それを理由に上忍師は不適格だったと上が判断し、担当上官は換えられた。けれど、今さら怪我が治って仲間が戻ってくるわけでもなく、中忍試験を受けようと思えるようになるまでは数年を要した。
「あの時、仲間のことを思えば途中でリタイヤするべきだったんです。でもそんな判断すらできなかった……何もわかっていない子供だったからです。力も心も追いついてなかった。今でもあの時試験を受けたことを悔やんでいます」
だから、ナルトたちだって本当はまだまだ早いと思っているんだ。
「大丈夫ですよ。ナルトたちなら仲間を思いやる気持ちも、そのために退く勇気も持ってます。たとえ今回受からなかったとしても、きっと試験のたびに大きく成長できますよ」
カカシさんは穏やかな眼で優しく微笑んでくれる。
そうかもしれない。要求されたことに応えるために、今まで以上の力を発揮できるようになるのはよくある話だ。試験を受けたからこそさらに強く慣れたという人間だってたくさんいる。
当時の自分の力不足をナルトに投影していては、失礼な話だろう。過酷な試練を乗り越えてこそ忍びなのだから。
「そうですね」
頷くと同時に、カカシ先生がすっくと立ち上がった。


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