「そうですよ。だいたいなんであんなおっさんですか。同じ人間なら若い俺の方がいいでしょうが」
同じ人間。それはたしかで同じ所もいっぱいあるのに、どこか違う気がする。それはなんでだろう。
しばらく考え込んで、ああそうかと思った。
「あの……俺、鈍いんです。言われたことはそのままにしか受け取れないし。だからちゃんと言葉にしてもらわないと駄目なんです。カカシ先生は思っていることとか言ってくれないから……」
カカシ先生とはまだ意思の疎通がうまくいかない。誤解ばかりな気がする。
それはやはりきちんと話が出来ていないからだと思う。言われたことや態度を真に受けて勝手にこうだろうと決めつけてしまう自分もよくないのだけど。
カカシさんとは話せばわかってもらえるという安心感があるのだ。それは、カカシさんが大人で忍耐強く聞いてくれているのもあるだろうけど、たぶん長い付き合いがあって自分のことを理解してくれることが多いのだと思う。
そう思うと、カカシさんとしゃべることが楽だと考える自分はちょっとズルをしているんじゃないかと思ったりもする。相手に正直に言わないのは自分も同じだからだ。カカシ先生と同じ。
「えーっと……自分の気持ちを正直に伝えられるよう努力しますから、嫌いにならないで?」
おそるおそるという風体でそんなことを言うカカシ先生に驚いた。
「嫌いになるなんて! カカシ先生こそ俺なんか好きになってガッカリするかもしれませんよ?」
話をしてやっぱり好きだという気持ちは誤解だった、と言われるかもしれない。
「それはありえませんよ」
そう言ってカカシ先生はなぜか自信ありげに笑った。
そんなものだろうか。俺にはまだよくわからない。
しばらく考え込んでいると、カカシ先生が今度は躊躇いがちに口を開く。
「……えーっと、正直に言った方がいいんでしたね」
「はい」
何か言いたいことがあるなら言って欲しい。
「もしかして誤解してると困るから言いますけど。さっきサスケが入院したことを言いたくなかったのは、イルカ先生が怒るかと思ったからです」
「そんなこと!」
怒る権利なんて俺にはないのに。
「そうじゃなきゃ、『だから中忍試験は早かったんだ』て言われるかと思ってね。ほら、俺って上忍師は初めてでしょう? だから教師年数の長いイルカ先生から見たら頼りないかなって、かなり不安だったんですよ」
「え? そうだったんですか?」
意外だった。そんなことを気にしてるなんて思ってもみなかった。もっと自信満々で、アカデミー教師のやり方なんて生温いと考えていると、そう思っていた。
「カカシ先生はもっと教えることにも自信があるかと思ってました」
「そんなことないですよ! 迷ってばかりです」
なんだ。本当に聞いてみないとわからないことが多いんだな。
「じゃあ、俺と同じですね」
「イルカ先生も?」
「そりゃそうですよ。子供は一人一人違うから、指導がいつも同じじゃ駄目だし。難しいですよ」
「なんだ、よかった。安心した」
カカシ先生同様、俺もふっと肩の力が抜けるのを感じた。
今日ちゃんと話せてよかった。話さなければ誤解したままだった。
「いろいろあったけど……俺は、あいつらに試験を受けさせてよかったと思っています」
「そうですね。カカシ先生がそう思うなら、きっとそれがあなたにとっての正解なんでしょう」
願わくば、それがナルトたちにとっても俺にとっても正解でありますように。
立ち上がって足に着いた埃をぱんぱんと払いのけ、
「じゃあ帰りましょうか」
と俺は誘ってみた。
そうしたらカカシ先生も嬉しそうに頷いてくれたのだった。


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2005.09.10


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