その次の日の授業は気もそぞろだった。
今頃予選は順調に進行しているはずだけど、ナルトたちはどうなっているのか。怪我をしていなければいいのだけれど。
それに、カカシさんは今日は大丈夫だろうか。朝は普段通りだったけど、昨日の様子が気になってしかたがない。
そんなことばかり考えていて、はっと気づくと木の葉丸が教室から抜け出そうとしていた。危ない危ない。集中しなければ。
頭を軽く振って気持ちを授業に切り替えた。
アカデミーが終わってから、もうとっくに終わっているだろう予選会場へと向かう。子供たちが残っているのを期待したわけではなく、試験官などが片づけやなにかでまだいるんじゃないかと思ってのことだった。
しかし、歩いている途中に呼び止められた。カカシ先生だった。
少し疲れているように見えたので、
「大丈夫ですか?」
と尋ねる。
「ああ、大丈夫ですよ。ナルトもサクラも元気だし。サスケもしばらく入院していれば体力も回復するでしょう」
主語を言わなかったせいで誤解され、全然違う答えが返ってきた。
「えっ。サスケ、入院したんですか!」
「あ……」
瞬間しまった、と言いたげに口をつぐみ、顔を背けた。
知らないなら言わなければよかった、失敗した、という感じだった。
余計なことを聞いてしまったのかもしれない。また元担任がしゃしゃり出てあれこれ言うつもりかと思ったのかも。
サスケのことは心配だったが、カカシ先生の言うとおり命に関わる怪我ではないのだろう。それならばいいんだ、再起不能な怪我なんかじゃなければ。
「余計な心配ばかりして、鬱陶しいですね俺」
「違っ……!」
否定されるとは思っていなくて、その剣幕に驚いた。
もしかして鬱陶しいと思われているわけじゃなかった?
そう考えた時、もしお互いが誤解をしていたのならそれを解きたいと思った。
「カカシ先生。少しお話ししてもいいですか」
「え。は、はい」
二人で外にある石段に座り込んだ。
「さっき『大丈夫ですか』って聞いたのは、ナルトたちのことじゃなくて、カカシ先生のことです」
「俺?」
「はい。あまり顔色が優れないように見えたので」
「あー」
カカシ先生は顔を顰めた。あまり指摘されたくなさそうだった。
「すみません。また余計なこと言ってしまったみたいで……」
「あ、いや、違います。ただみっともないところ見られたなぁと思っただけで」
「体調が悪いのがみっともない、ですか?」
言葉の意味がわからず戸惑った。なにも上忍だからといって常に完璧でいなければならないわけでもあるまいに。人間体調の悪い時だって必ずある。
「だって俺、イルカ先生のことが好きなんですよ。いつもかっこいい姿を見られたいじゃないですか」
途端かぁっとなった。
そういえばそう言われたような気がする。忘れていたわけではないけれど、実感がなかった。
そして、俺の前でかっこつけようなんてカカシさんと同じことを言う、と思った。もちろん同じ人間なわけだけど。なんだかおかしかった。
俺の考えていることを察したのか、カカシ先生はむっとした表情で言った。
「イルカ先生は、あいつのこと好きなんでしょ」
「え!」
なんで。
「だって、見る目が全然違うから」
「そ、そうですか?」
自分ではそんなつもりはなかったけど、見てすぐわかるほど違うんだろうか。
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